アートをもっと身近に、もっと自由に。 “一億総クリエイター時代”に向けて走り出した「イメージアーカイブ・ラボ®」
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国内・海外で提携する美術館・博物館等のコンテンツホルダーとの契約のもと、国内最大級のアートと歴史の専門フォトエージェンシーとして長年にわたる実績を持つ「イメージアーカイブ」。2023年12月、このサービスをベースに、個人クリエイター向けにアート作品のデジタル画像のライセンスを提供する「イメージアーカイブ・ラボ」のサービスを開始しました。なぜ、対象を個人クリエイターに拡大したのか。そして、このサービスを通してDNPが見据えるクリエイターエコノミー市場の未来とは。マーケティング本部 文化事業ユニットの神田歩理、茂野夏実、岩川浩之に話を聞きました。
目次
大日本印刷 マーケティング本部 文化事業ユニット
神田歩理(あゆり)(写真左)
茂野夏実(写真中央)
岩川浩之(写真右)
※イメージアーカイブ・ラボ公式Webサイト:
https://imagingmall.com/imagearchiveslab/About/5786988979476978/serv/index.html
“印刷”を介して連綿と続く、DNPとアートの絆
――まず、DNPとアートの関係について教えてください。
岩川浩之(以下、岩川)
DNPは、印刷会社として長きにわたり、国内外の美術館・博物館と広く協働し、アート作品の撮影やスキャニングに多く携わってきました。そうするとデジタルデータが蓄積されていくのですが、それらのデータをただアーカイブするだけでなく、これまでも新たな鑑賞システムとしての展示手法への応用や、高精細複製による作品現物の保存と継承など、多岐にわたるアーカイブ画像の利活用を所蔵館の皆さまとともに行ってきました。
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――DNPがアート領域において感じている課題を教えてください。
神田歩理(以下、神田)
他のコンテンツIP画像同様、アート作品の画像も商業的に利用することにハードルが高い点です。生活雑貨や衣服にゴッホやモネ等の作品が使われていたら、自然とアートにも興味がわきますよね。企業やイベントの公式グッズのようなものはミュージアムショップなどを通じて流通していますが、まだ限定的な範囲に留まっています。
アートのすそ野を広げ、その潜在的な価値を最大限に高めるには、個人クリエイターの発想や情熱が欠かせないと感じています。しかし、現在は個人が販売する商品に利用したいと思っても、権利処理をどうすればいいのかわからず、手続きも煩雑です。その結果、個人クリエイターにとってアートの二次/n次利用は、普及が進まない状況が続いています。ライセンスを発行するミュージアムにとっても、クリエイターからの問い合わせ一つひとつには対応しきれないのが実情でしょう。
こうした状況を踏まえ、真の意味でアートを身近にするには、個人クリエイターによる二次/n次創作の経済合理性を高める必要があると感じていました。
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「アートを身近に」という視点から生まれたイメージアーカイブ・ラボ
――イメージアーカイブ・ラボが実現に至るまでの背景と経緯を教えてください。
神田
イメージアーカイブ・ラボは個人や小規模事業者向けのサービスですが、もともとDNPは法人向けに「イメージアーカイブ*1」というサービスを提供しています。これは企業や団体が、メディア利用や商業印刷等のためにアート画像の許諾をスピーディに取得できるサービスです。現在、国内外の美術館・博物館が所蔵する画像データ約10万件を提供しています。
- ※1 イメージアーカイブ : https://images.dnpartcom.jp/
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その対象を個人クリエイターにまで拡大する必要性を認識したのは、日本国内におけるクリエイターを中心とした経済圏「クリエイターエコノミー」に着目したのがきっかけでした。その国内市場規模は、2022年時点で約1兆6,552億円*2になります。しかし、実際には権利許諾を得る過程で二次/n次創作を諦めてしまっているケースも多く、市場にはその倍近いポテンシャルがあるといわれています*3。
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※2 出典元:国内クリエイターエコノミーに関する調査結果, 2023年10月/三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社
https://www.murc.jp/wp-content/uploads/2023/10/cr_231031_01.pdf
- ※3 出典元:令和元年度 知的財産権ワーキング・グループ等侵害対策強化事業n次創作活動に関する調査(経済産業省)
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私たちは、その潜在市場を掘り起こし、クリエイターエコノミーの成長をサポートする目的で、イメージアーカイブ・ラボを立ち上げました。業界全体の活性化を促し、個人のクリエイターはもちろん、アートの権利を保有するライセンサーとクリエイター、生活者をつなぐサービスをめざしています。
――イメージアーカイブ・ラボの概要と使い方を教えてください。
神田
イメージアーカイブ・ラボは、自分の作品の商業販売を目的とする個人クリエイターに向けて、ブロックチェーン技術を用いた安心な権利処理を通じて、アート画像を提供する取り組みです。NFT(非代替性トークン)によるデジタル証明書を発行することで、手軽にアート画像の許諾を得ることができます。
その使い方はシンプルで、「ルーヴル美術館・オルセー美術館・オランジュリー美術館」「国立西洋美術館」等各商品一覧ページから、クリエイターが創作に利用したい画像をカートに入れて、決済手続きを行うだけ。ライセンス価格は二次/n次創作する商品の販売総額ごとに決められます。
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茂野夏実(以下、茂野)
2021年12月からと2022年5月からの2回の実証実験を行い、2023年12月に本格スタートしたサービスです。国内外の美術館が所有する有名なアートの作品画像を扱うことができているのは、印刷会社としてミュージアムと深く関わってきたDNPの強みです。また、林原美術館が所有する屏風や能面といった国内の貴重な文化財、お花屋さんとして有名な日比谷花壇にはフラワーグラフィックを描き下ろしで提供いただく等、独自性の高い画像も取り揃えています。
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現在は、GMOペパボが運営するハンドメイドマーケット「minne(ミンネ) byGMOペパボ」とコラボ企画を行い、企画テーマにあわせたアートを扱ったハンドメイド作品を募集するなどさまざまな企画を展開しています。クリエイターにとって、話題になったり知名度が上がったりすることは、大きなメリットになりますので、今後もこのような企画を積極的に開催していきたいです。
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――イメージアーカイブ・ラボをリリースして、どのような反響がありましたか。
茂野
クリエイターの方々からは、「ダ・ヴィンチやゴッホの絵を使えて嬉しい」といったような喜びの声を数多くいただいています。アート画像によっては、全体を使用するだけでなく、作品の一部分をトリミングやオマージュとして柔軟に自分の作品に取り入れることができるので、「こんなことができるなんて!」という驚きのリアクションも多いですね。
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ライセンサーにあたるミュージアムの担当者と企画についてお話しする際も、面白い取り組みだと興味を持っていただけることが多いです。日本では「二次創作=権利的にグレー」という認識が広まっているようですが、イメージアーカイブ・ラボの取り組みを通じて関係者の意識を変えていくことで、クリエイターエコノミーをさらに拡大できるという手応えがあります。
岩川
DNPが運営するオープンイノベーション施設「DNPプラザ」(東京・市谷)で2024年8月9日(金)~9月21日(土)に開催した「アートをもっと身近に、もっと自由に」展では、クリエイターによる作品展示とともにイメージアーカイブ・ラボの取組みを紹介し、またモネの「睡蓮、朝」を縦幅2メートル、横幅12.75メートルという、ほぼ原寸大(約8割)の大型サイズで展示しました。
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デジタル画像のままだと分かりにくいのですが、屏風や装飾画等を原寸大で出力すると、低解像度のデータでは、かなり粗い品質になってしまいます。その点、イメージアーカイブ・ラボの高解像度の画像データなら、アートが本来持っている魅力を最大限に活かしていただけると思います。
ここまで大きくして展示する例は珍しく、展示会の期間中、会場の前を通りかかった方が足を止めて眺める姿も多く見受けられました。
「1億総クリエイター時代」を見据えて
――ライセンサーやプラットフォーマーにとって、イメージアーカイブ・ラボのメリットはどこにあるでしょうか。
茂野
ライセンサーにとっては、まず許諾手続きの負荷を軽減できる点があげられます。それだけではなく、クリエイターエコノミー市場が活性化することは、ライセンサーにとっても所蔵コレクションへの認知を拡大するチャンスになります。結果として、興味関心の喚起や来館者の増加につながる機会も創出できると考えています。
プラットフォーマーにとっては、取扱商品の増加にともなう売上拡大と、顧客層の多様化、クリエイターとの関係構築等がメリットとなります。「ミロのヴィーナス」やゴッホの「自画像」等、知名度の高い作品をモチーフにしたハンドメイド作品は、アートに関心の高い作品購買層への訴求になると同時に、クリエイター自身の創作性やオリジナリティがアート画像を介して日の目を浴びるきっかけにもなっています。特定の作品をピックアップすることで、定期的にさまざまな企画を開催しやすいのもポイントですね。
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――イメージアーカイブ・ラボの今後の展開について教えてください。
神田
短期的にはこの取り組みをより多くの方に広く知ってもらうことが目標です。SNS等で積極的に情報発信を行い、クリエイターの皆様の参加障壁を下げてアート画像をつかった二次創作作品をたくさん生み出せる環境を醸成したいと思っています。
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また、これはまだ先の話になりますが、インターネット上の仮想空間「メタバース」での展開も見据えています。2027年の国内のメタバース市場規模は2兆円を超えると試算されており*4、インターネットを介して全ての国民がクリエイティブに活動する「1億総クリエイター時代」の到来が予見されています。もしかしたら、メタバース上で「モナ・リザ」が動き出す未来もあるかもしれません。
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※4 出典元:2023 メタバースの市場動向と展望, 2023年8月/株式会社矢野経済研究所
https://www.yano.co.jp/press-release/show/press_id/3333
今後、海外からの訪日観光客の増加や海外のクリエイターとの垣根が低くなっていくにつれ、日本の文化財に対する注目度が格段に上がるのではないかと期待しています。刀剣や能面をメタバースで目にして、実物を見たいと日本を訪れる海外の方もいらっしゃるでしょう。
二次/n次創作を通じてアートをより身近に感じてもらい、ミュージアムを訪れる人が増える。そして、「自分もつくってみようかな」と社会全体でアートへの関心が高まっていく。こうした良いサイクルを作っていくことが、イメージアーカイブ・ラボの長期的な目標です。
日本のクリエイターエコノミー市場は、まだまだ大きな可能性を秘めています。アート領域におけるライセンサー、プラットフォーマー、そして二次/n次創作を行う個人クリエイターたちの経済的なポテンシャルは、これから大いに開拓されていくと私たちは確信しており、イメージアーカイブ・ラボがその受け皿となれたらと考えています。
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「アートをもっと身近に、もっと自由に」展
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会場:DNPプラザ(東京都新宿区市谷田町1-14-1 DNP市谷田町ビル)
会期:2024年8月9日(金)〜9月21日(土) ※終了しました
https://dnp-plaza.jp/CGI/event/reservation/detail.cgi?seq=0001318
◯モネやゴッホ等の名画を使って創作したアイテムを中心に展示
アート作品の画像データライセンスを利用して、個人クリエイターが自由な発想で創作したファッション、アクセサリー、インテリア等、人々のライフスタイルを彩るアイテムを多数展示しました。また、これらの作品はハンドメイドマーケット「minne byGMOペパボ」(https://minne.com/ )で販売されました。
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◯クロード・モネの名作絵画「睡蓮、朝」を迫力の大画面で展示
モネの絵画をテーマとした作品を募集する企画「minne ART MUSEUM モネとの出会い」と連動し、「イメージアーカイブ・ラボ」でライセンスを扱う「睡蓮、朝」を大型サイズで展示しました。画像データを利用して創作した各種アイテムとともに、ご来場者の皆さんに楽しんでいただきました。
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◯DNPプラザ内の「外濠書店」「問いカフェ」とのアートコラボも実施
施設1階では、カフェでの企画展コラボレーションメニュー、撮影スポットの設置、書店コーナーでのアート関連の選書等、アートを身近に・自由に楽しむためのコンテンツを展開しました。
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DNPプラザの公式Instagramアカウントもご覧ください
https://www.instagram.com/dnpplaza/
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