印刷工場見学レポート

「刷る」技術力に密着! 印刷工場見学レポート

創業以来150年近く印刷産業をリードしてきたDNP。紙への印刷からスタートし、情報サービスや包装・建材、エネルギーやモビリティ、電子機器やライフサイエンスなど、さまざまな分野に事業を広げています。こうした事業領域の拡大は、印刷プロセスに立脚した技術の応用・発展によって実現しています。 今回は、DNPが強みとする技術力の原点の一つ、「刷る」技術について詳しく紹介。DNPの若手社員Aが印刷工場を訪問し、ベテランの工場スタッフBからモノづくりの裏側を引き出します。 なお、本記事は、山と溪谷社の雑誌「山と溪谷」編集部のご協力により作成しています。

目次

知っておきたい印刷の基礎知識

若手社員A

印刷工場には初めて来ました。本日はどうぞよろしくお願いします!

工場スタッフB

こちらこそよろしくお願いします。実際に印刷工程を見ていく前に、印刷の基礎知識についてご説明します。早速ですが、この雑誌をルーペで覗いてみてください。何が見えますか?

小さな点々がたくさん見えます! 色とりどりの点が集まっているみたいですね。

印刷物を約1万倍に拡大すると、小さな「網点」が見える。

この小さな点を「網点」と呼びます。色の濃い部分は網点がたくさん重なり、薄い部分は網点が小さくなっていますよね。網点の大きさによって色の濃さを表現しています。

確かに点が小さくまばらだったり、大きくて重なっているところもあり、場所によって違いますね。

点の大きさによって色の濃さが調整されているのでカラフルな点に見えますが、実はこれらの点はたったの4色のインキしか使用していません。

CMYKですね! 新人研修で教えてもらいました。印刷物はC(シアン・藍)、M(マゼンタ・紅)、Y(イエロー・黄)、K(ブラック・墨)の4色のインキを調整して印刷されているんですよね。

その通りです。CMYKの4色で、金や銀などの特別な色以外はどんな色でも表現できます。印刷する際は、CMYKのインキを1色ずつ、K(墨)→C(藍)→M(紅)→Y(黄)の順に重ねていきます。濃度が高い色から印刷したほうが正確に色を再現できるんです。

色を重ねて刷る際に、各色が正しい位置に印刷されるよう「見当(けんとう)合わせ」という作業を行う。

それぞれの色はどうやって印刷するのでしょうか?

印刷方式には「活版(凸版)印刷」「オフセット(平版)印刷」「グラビア(凹版)印刷」などがあり、この雑誌はオフセット印刷で製造しています。印刷データをもとに作る「版」にインキを付着させ、そのインキをゴムのブランケット(柔軟性のあるシート)に転写。さらに、ブランケットから紙に転移して印刷します。

「版」はハンコみたいな役割ですね!

はい、CMYK各色のハンコを作成して、それらを順に紙に転写していくイメージです。

ということは、4つの版がずれたら大変なことになりますね。

そうなんです! 印刷した紙の四隅を見ると、二重の線や三本の線がありますよね。これは「トンボ」と呼ばれるもので、版をぴったり揃えるための目印なんです。

四隅のトンボを正確に重ね合わせることで、4色の版がずれないようにする。トンボには、印刷される領域を正確に示す意味もある。

紙に印刷するまでに、版を作成して、ずれないように正しく合わせたり、用紙やインキをセットしたりと、さまざまな準備が必要なんですね!

コラム:微細加工技術

DNPは、印刷物の内容を精密に転写するための版づくりを通して、金属に加工を施すエッチングなどの微細加工技術を磨いてきました。この緻密な精度の技術を半導体回路の原板となるフォトマスクの製造などに活かし、電子製品の小型化・薄型化にも大きく寄与しています。
https://www.dnp.co.jp/development/basic-technology/micro-processing/

鮮やかな色の再現や特殊加工が求められる表紙の印刷

いよいよ実際に印刷工程を見ていきましょう。今回は山と溪谷社の雑誌「山と溪谷」がどのように作られているかをご覧いただきます。まずは、雑誌の顔である「表紙」の印刷を見てみましょう。表紙は、特に色を正確かつ鮮やかに再現することが求められるので、1枚ずつ切った紙に印刷する「枚葉(まいよう)印刷機」を使用します。

  • 枚葉印刷機。長さ10〜20メートルの大きな機械で、雑誌の表紙のほか、チラシやポスター、パッケージ、名刺など幅広い印刷物で利用している。用紙に厚みがあっても、部数が少なくても対応できる点も特徴。

枚葉印刷機って、どのような特徴があるのですか?

通常の印刷に加えて、CMYKでは表現できない特別なインキ(特色)も使用できます。また、手触りや光沢感を変える特殊な加工を施すこともできます。

紙は、本文と違うものを使うのですか?

表紙を印刷する際は、理想の色を再現するため、本文とは違う紙を使うことが多いです。「山と溪谷」の場合、1枚の用紙に表紙を4つ並べて印刷しています。

  • 枚葉印刷機の印刷ユニット。使うインキの数でタンクが分かれており、濃い色から印刷するよう、K(墨)→C(藍)→M(紅)→Y(黄)の順に並んでいる。

表紙は特に色の再現が大切になるので、印刷している間は何度も色を確認しながらインキの量を調整します。最初に試し刷りをした後、本番の印刷中も一定間隔で印刷物を抜き取って、ルーペで細かく丁寧に確認していきます。

  • クライアントからの色見本を基準に、ルーペでチェックしている。

色がおかしいと思ったら、どのように対応するのですか?

色調整用のパネルを操作して、インキの量を調整します。当日の温度や湿度、紙の具合、印刷機の調子等で必要なインキの量は変わるので、担当者の経験がものを言います。

機械任せではなく、人の経験やノウハウが大切なのですね。

また、この雑誌の場合は、透明なニスをタイトル部分に盛って光らせる特殊加工を施しています。加工後の表紙を、ぜひ手に取ってみてください。

うわっ! キラキラ光っていて目を引きますね。こうした表紙の本をたまに書店で見かけますが、こういう表現が印刷でできるとは知りませんでした。

ほかにも、ざらざらした触感やメタリックの風合いを出すなど、さまざまな加工が可能です。こういった特殊な印刷加工の技術は、DNPの基盤技術として多様なものに応用されていますよ。

コラム:精密塗工技術

DNPが精密塗工技術を紙からフィルムに広げたのは1951年。その代表的な製品の一つとして、1958年に日清食品「チキンラーメン」のパッケージ印刷を開始した。紙とは違ってインキを吸わないフィルムへの印刷で活躍したのがDNPが開発したアンカーコート剤。以来、フィルムへの塗工や加工の技術を磨き続け、今やその技術は、世界トップシェアのディスプレイ用表面フィルムやリチウムイオン電池用バッテリーパウチなどにも活かされています。
https://www.dnp.co.jp/development/basic-technology/dispersal/index.html

高速かつ高精度な印刷に適した大型輪転印刷機

次は本文ページを印刷する様子を見ていきます。こちらがその印刷に使用する「輪転(りんてん)印刷機」です。先ほどの枚葉印刷機と比べて違いはわかりますか?

とても大きいです。大きすぎて機械の全体が見えない……。

そうなんです。枚葉印刷機では表紙と裏表紙のみ印刷しましたが、「山と溪谷」の本文ページは182ページあります。それだけ多くのページ数を印刷するには、このような巨大な印刷機が必要になってきます。

  • 輪転印刷機。大きなものでは全長40メートルにもなる。4つの色の版を印刷した後、ページごとに折って断裁するところまでカバーする。雑誌や新聞などで使われるケースが多い。

先ほどの枚葉印刷機と違って、使用する紙がロール状ですね。

そうなんです。輪転印刷機は大量のページを素早く印刷するため、「巻取(まきとり)」というロール紙を使用して、紙の両面を一気に印刷していきます。

  • 輪転印刷機の中を高速に流れる印刷用紙。印刷からインキの乾燥(ドライヤー)までスピーディーに完了できるため、雑誌のほか、新聞や折込チラシなど、大量の部数が必要な印刷物も同じ方法で刷られている。

ものすごいスピードで印刷されていますね。ゴォーという音が工場内に響いています。

今回の雑誌の場合、裏表合わせて16ページ(片面8ページ)単位で印刷されていきます。乾燥ユニットでインキを乾かした後、16ページごとに折って断裁した「折丁(おりちょう)」と呼ばれる形で出てきます。

大きなロール紙に印刷した後、折りながら断裁し、16ページ等の冊子状になったものを「折丁」と呼ぶ。

丁寧さが命!接着のりで製本する「無線綴じ」

印刷の工程が終わったら、いよいよ最後の工程である「製本」を行います。製本方法で代表的なものと言えば、見開きの真ん中をホッチキスのように針金で止める「中綴じ」と、折丁を接着のりで付ける「無線綴じ」があります。今回の「山と溪谷」は、ページ数が多く厚みが出る冊子に向いている「無線綴じ」を使っています。

製本の方式によって外観の違いもありますか?

無線綴じは背表紙が平らになり、中綴じは背表紙がありません。

次は折丁をのりづけして、本の体裁を整える作業ですね。

はい、丁合(ちょうあい)と言って、さきほどの16ページ分の折丁をページ順に重ねていきます。1ページの方から1折、2折、3折と呼んでいて、スタッフが丁合機の所定の位置に各折丁をセットすると、12折の上に11折、その上に10折……と自動的に重ねられていきます。

  • 丁合作業の様子。丁合機の動作を止めないよう、正しく、素早く折丁を補充していく。丁合後のものを一定間隔で抜き取ってチェックし、正しい順番で重ねられているかを確認している。

丁合されると、雑誌らしくなりましたね。

あとは、本文と表紙も含めて無線綴じをしていけば完成です。無線綴じには三つのステップがあります。まずは、丁合された本文ページの背を数ミリカットする「ミーリング」。二つ目が背に機械でギザギザのキズをつける「ガリ入れ」です。ともに、接着のりが染み込みやすくするための作業で、最後にのり付けして表紙と合わせて接着します。

  • 「ミーリング」と「ガリ入れ」を施した本文ページの側面。この部分にのりを塗布し、表紙で包み込んで接着する。

白いのりと、黄色いのりの、2種類がありますね。違いを教えてください。

白い方が本の背を固めるための「背のり」です。黄色い小さな粒は「横のり」で、表紙に接する折丁のノド(冊子を開いた時の内側部分)に細長く塗布して、表紙と本文を接着します。この2種類の接着のりを使い分けているんです。

左が「背のり」で右が「横のり」。

コラム:材料開発技術

DNPは、インキや接着剤などの材料を活用する過程で、その効果を最大化するための混合・分解技術を発展させてきました。高精度な材料開発技術は、プラスチックや繊維に代表される高分子材料の開発にも貢献。高分子材料は、食品パッケージや住宅・非住宅の内外装材の製造をはじめ、多くの事業に欠かせない素材となっています。
https://www.dnp.co.jp/development/basic-technology/

これでようやく、書店で見かける雑誌の形状になりましたね。

最後に大切な作業が残っています。それが、袋とじ状態になっているページをめくれるようにし、外観も美しく仕上げる「三方断裁」です。具体的には、接着のりが付いていない3辺の紙をカットして、大きさを均一に揃えます。

  • 折丁を正しい順番で重ねて表紙でくるんだら、背表紙以外の3辺をカットする「三方断裁」を行う。

ついに完成ですね! 完成までにたくさんの人の手と高度な技術が詰め込まれていることを実感しました。

それはうれしいですね。「印刷」とひと口に言っても、私が入社した数十年前と比べてさまざまな面で大きく進化しています。その過程では、より良い製品を生み出すために日々工夫や研究を積み重ねてきた先輩たちの努力がありました。

それが、現在のDNPを支える幅広い事業につながっていると思うと、私も身が引き締まります。今日は工場を案内していただき、ありがとうございました。

企画展「発見!雑誌づくり工場(無線とじ編)」を開催しました

期間:2024年6月8日〜10月14日
会場:「市谷の杜 本と活字館」
https://ichigaya-letterpress.jp

この企画展では、雑誌が完成するまでの印刷~製本のプロセスについて、実際の製造の流れに沿って解説しました。