スマートファクトリーの実現を支える位置検出マーク「DXマーカ」
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製造・物流現場の省エネ化・無人化に向けて、工場のオートメーションが加速し、さまざまな機器・技術の研究開発が進むなか、それらを下支えする大切な仕組みが、機器同士や工場設備の位置を正しく認識するための位置検出マークです。DNPが開発した「DXマーカ」は、従来品に比べて、製造・物流の現場で実装可能な低コストを実現し、スマートファクトリーの実現を加速させる製品として大きな期待を集めています。
目次
ロボット制御のカギとなる位置計測
製造・物流現場での人手不足の解決策として、工場内の機器・設備をインターネットにつなぎ、一括で管理する「スマートファクトリー」が期待されています。無人フォークリフト等のさまざまなロボットに、積荷の搬送や上げ下ろし、在庫確認といった作業を自律的に行わせることで、工場を無人化、効率化させる次世代工場として注目されています。
これらのロボットに欠かせないのが、「今、自分(ロボット)はどこにいるのか?」という正確な位置計測機能です。自分がいる場所をロボット自身が正確に認識することで、対象物との距離の把握や、他のロボットとの接触の防止などが可能になります。
こうした正確な位置計測を行うため、国立研究開発法人産業技術総合研究所(以下、産総研)の田中秀幸氏は高精度マーカの開発に着手。かつて産総研に在籍した大森能成氏(リーグソリューションズ株式会社。以下、リーグ社)とともに、従来品の10倍以上の精度を持つ高精度マーカを完成させました。
これにより工場の自動搬送化は一気に進むかに思われました。しかし、この高精度マーカには高価な特殊レンズを使用していたため、工場に普及させるには何らかの形で低コスト化を実現する必要がありました。
DXマーカが位置を割り出すメカニズム
DNPが開発したDXマーカ。現在40mm角、80mm角の二種類があり、さらに用途によって大きさを変更できる。カメラが四隅のドットを撮影し、その画像をリーグ社の専用ソフトで演算処理することで、ロボットの位置を正確に計測する。 |
この課題解決に取り組む産総研から相談を受けて、DNPが開発したのがDXマーカです。
厚さ0.7mmのガラス基板でできた、いわば“位置検出板”。4隅にドット(黒点)が印字され、中央に対象物を特定するIDデータが埋め込まれています。この4つのドットをカメラで撮影し、その画像を専用ソフトで分析して、空間内の位置を表す3つの軸(X・Y・Z軸)と、各軸に対応する姿勢(X軸→Roll:ロール軸、Y軸→Pitch:ピッチ軸、Z軸→Yaw:ヨー軸)の6つの指標で正確な位置情報を導き出します。
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また、ガラス製で熱に強く耐久性が高い点、1台のカメラで同時に1000枚ものマーカを識別できる点など、製造・物流現場での運用を念頭においた基本設計も大きな特徴です。
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DXマーカ開発を支えた、DNPの技術と発想
DNPは、高価な特殊レンズの代わりに、「印刷」で培ってきた超微細加工技術を活用することで、低コストでのDXマーカの製造に成功しました。
4隅のドットの位置や大きさから高精度な位置計測を行うためには、ミクロン(1000分の1ミリ)単位で、正確な位置にドットを配置する必要があります。
この高精度なドットの印字を可能にしたのが、DNPが液晶カラーフィルターや半導体フォトマスク等で高度化してきた超微細加工技術「フォトリソグラフィ」です。フィルム写真のネガを印画紙に焼き付ける方法を応用したもので、光を通す部分と通さない部分をパターン化したマスクを使って露光することで、感光性の材料に、ミクロン単位の精度を持つ微細なパターンを形成する技術です。
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DNPはこれまで、ルーペを使わないとパターンが識別できないような微細な印刷物やカラーフィルター、フォトマスクなどにフォトリソグラフィ技術を活かしてきました。今回のDXマーカのような、肉眼ではっきり見える大きさで、正確な位置に印刷するのは初めての試みでしたが、社内の開発メンバーがアイデアを持ち寄ることで実現しました。産総研の田中氏が「初期段階でおおむね良好な試作品が上がり、驚いた」というほど、製品化は順調に進みました。
また、精度をさらに高める“切り札”として、光源の写り込みと耐久性を両立させたアンチグレア(防眩)フィルムを実装しています。このフィルムをDXマーカの表面に貼ることで、蛍光灯や太陽の光などがマーカに写り込むのを抑制し、カメラのドット認識精度を高めることに成功しました。
低コスト化という課題を解決するだけでなく、クライアントやパートナーの期待を超える機能の製品開発に成功したDNP。リーグ社の大森氏が「構造と使い方のシンプルさこそ、最大の価値」と指摘するように、先端技術を“本当に使いやすいカタチ”で製品化し、市場に届けることは、幅広い領域のモノづくりを手がけるDNPならではの役割なのです。
先進技術を社会に広めるために
宇宙航空研究開発機構(JAXA)の実験衛星に搭載されるなど、高い評価を受けている産総研の高精度マーカ。その開発の立役者である田中秀幸氏は、DNPのDXマーカを次のように評価しています。
「低コスト化を考えた際に、漠然と、印刷技術で精度の高い位置計測をクリアできるのではという感触があり、まず思い浮かんだのがDNPさんでした。結果的に『DXマーカ』という期待以上の製品が生まれたので、その判断は間違っていなかったと思います。
今後、現実社会とサイバー空間が一体化された“サイバーフィジカルシステム社会”へ進んでいくと思いますが、『DXマーカ』は2つの世界をつなぐ接続ポイントになりえます。安価で取り入れやすいですし、さまざまな産業でイノベーションを促進する存在になってほしいですね。」
国立研究開発法人産業技術総合研究所(AIST) 人間拡張研究センター生活機能ロボティクス研究チーム 主任研究員 田中秀幸氏 |
リーグソリューションズ株式会社 代表取締役 大森能成氏 |
産業技術総合研究所 https://www.aist.go.jp
リーグソリューションズ株式会社 https://leag.jp
※記載された情報は公開日現在のものです。あらかじめご了承下さい。
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