「AWS DeepRacer Championship Cup」でDNPデジタルソリューションズ 瀧下初香が優勝 

「AWS DeepRacer Championship Cup」で優勝 世界に挑む!社内プロジェクトでAI技術者を育成

2019年12月、アマゾン ウェブ サービス(AWS)のグローバル・カンファレンス内で「AWS DeepRacer Championship Cup」が開催された。18分の1サイズの自動走行型レーシングカー「AWS DeepRacer」に搭載された人工知能(AI)にプログラムを学習させ、持ち時間内の最速の走行タイムを競うこの世界大会にDNPグループの社員が参加し、1位と2位を獲得した。 DNPがグループ一体となって「AWS DeepRacer」を活用した人材育成の取り組みに力を入れている理由は? そして、世界大会に参加することで得られたものとは? 発起人の和田剛、事務局運営に携わった日暮敬行、世界大会に出場した瀧下初香、大野史暁の4名に話を聞いた。 (写真:Amazon Web Services)

目次

AI技術者を育成する新たな切り口

例えば、国内の少子高齢化等による労働人口の減少と、それに対する業務効率化の推進など、さまざまな社会課題の解決に向けてAIの活用が進んでいる。DNPにとっても、新たな価値を生み出す製品・サービスを開発するうえで、AIはなくてはならない存在だ。ビジネス効果を考え、各クラウドサービスを組み合わせた開発を実践するAIエンジニアを育成するには、AI技術/機械学習に関するスキルを身につけさせる必要がある。社員が自主的にAI技術/機械学習について考え、学び続ける原動力として「AWS DeepRacerリーグ」日本大会への参戦を掲げたプロジェクトの発起人である和田剛は、今回の活動について次のように話す。

「AWS DeepRacer」を活用した人材育成の発起人 DNP和田剛

大日本印刷 
情報イノベーション事業部 C&Iセンター
和田剛 

「AWS DeepRacer」を活用した人材育成の発起人。

「いま、新しい事業を開拓していくためにAIの活用が不可欠ですが、正直、社内にAIエンジニアの数は多くありせん。すでにAIを専門にした研究開発を進める部署はありますが、新しい人材を発掘したいと考えていました。そこで、研修のような勉強会方式ではなく、社員が積極的にAIのスキルを学び、成長していける取り組みができないかと考え、辿り着いたのが、『AWS DeepRacer』でした」(和田)

新しい人材育成の取り組みに、AI未経験者がぞくぞく参加

「AWS DeepRacer」は、AWSが提供する18分の1サイズの自動走行型レーシングカー。参加者は、3DシミュレーターでレーシングカーにAI学習させる「AWS DeepRacerコンソール」を活用し、いかに早く走らせるか試行錯誤する中で、AIを活用した強化学習を学ぶことができる。そして、育てたプログラムをレーシングカー搭載AIに学習させ、実際のコースで走行タイムを競うのが「AWS DeepRacerリーグ」だ。

プロジェクトを始動するにあたって、和田はまず日本大会への参加者を社内で募り、それを受けて大日本印刷の情報イノベーション事業部とグループ会社のDNPデジタルソリューションズ(DDS)で事務局を立ち上げた。DDSで事務局を務めた日暮敬行は、参加者を募る中で、いつもの取り組みとは違う手応えを感じたという。

DNPデジタルソリューションズでの事務局を務める日暮敬行

DNPデジタルソリューションズ
Webシステム制作本部
日暮敬行

社内で事務局を務める。

「社内では、DeepRacer以外にもさまざまな取り組みをしていますが、デザインやアプリ開発など、生活者に近い部分を担う社員の参加が多い傾向です。ところが、今回はシステム開発やサーバーの企画・運用部門など、これまであまり参加しなかった人が手を挙げてくれました。『AWS』の実務経験がない人も多かったのですが、興味がある人がこんなにいたのかと考えさせられました」(日暮)

世界大会の優勝者 DNPデジタルソリューションズ瀧下初香

DNPデジタルソリューションズ 
コミュニケーションプロセス開発本部
瀧下初香
 
世界大会の優勝者。

世界大会で優勝した瀧下も、そこで手を挙げた1人。「『AWS』を使ったことがなかったので、機会があるなら触ってみたい。自分ひとりでAIを学ぶのは厳しそうだけど、みんなでやれば続けられそう」という軽い気持ちで参加したという。

大野史暁は、「事務局メンバーとしてみんなに勧めるなら、自分自身も詳しくなったほうがいいな」と思い、参加を決意。「以前から機械学習には触れていましたが、強化学習は初めての経験でした」と話す。

世界大会2位。社内で事務局も務める DNPデジタルソリューションズ大野史暁

DNPデジタルソリューションズ
Webシステム制作本部
大野史暁

世界大会2位。社内で事務局も務める。

結果、集まった社員は84名。和田は、「こんなに反響があると思っていませんでした」という。そして、2019年6月に開催される日本大会への出場をめざし、5カ月にわたるプロジェクトが始まった。

勉強会は50回。参加は強制せず、社員の自主性に任せた。

事務局では、集まったメンバーに向けて週2回の勉強会を開催。メンバーは強化学習の基本を学びながら、「AWS DeepRacer」を安定して走らせるためのアイデアを出し合った。また、月に1回、3Dシミュレーターで社内レースを実施。どうすればコースアウトしないか、どうすれば早く走れるか検討し合った。メンバーは各自で強化学習モデルを作成し、結果がひとつ出るたびに修正しては「AWS DeepRacerコンソール」でトレーニングさせ、シミュレーション走行するという作業を繰り返し、自身のスキルを高めていった。

勉強会で説明する社員

勉強会に参加する社員たち

当時について大野は、「やらされているという感覚はゼロで、気づいたら夢中になっていました。社内の活動ため、基本的に業務時間内に社内からしかシステムにアクセスできないので、空き時間をつくろうと、逆に業務に集中していた気がします」と語る。

会社がきっかけを用意したとはいえ、どうしてここまでメンバーが夢中になったのか。近くで見ていた和田はこう話す。

「レースで車を早く走らせるというゴールが明確ですよね。早く走らせたいから、どんどん没頭して、スキルを高めていく。今回の取り組みで特徴的なのが、参加者の自主性に任せたという点です。もともとAIエンジニアの育成が目的ですが、会社から強制したり、制度化したりということはしていません。興味を持って取り組める場を提供するほうが、人材育成には効果的なのかもしれません。」

人材発掘のきっかけをもっと増やしていきたい

2019年6月12日(水)~14日(金)にAWSが開催した技術者向けカンファレンス「AWS Summit Tokyo」内で行われた公式レース「AWS DeepRacerリーグ」日本大会。経験も無く、気軽な気持ちで参加した瀧下だったが、完走者195名中、1位という快挙を成し遂げる。さらに大野が2位にランクインするなど、DNP勢が日本大会を席巻した。

12月には、世界各地での同リーグの優勝者と総合成績上位者など64名が参加する世界大会「AWS DeepRacer Championship Cup」に出場し、気がつけば瀧下と大野が世界1位・2位を獲得していた。その結果はレースに携わる人々の間でも話題となり、DNPがレース参戦を通じてAIエンジニアの育成に力を入れていることが広く知られるきっかけとなった。

世界大会「AWS DeepRacer Championship Cup」

瀧下(中央)と大野(左)が世界1位・2位を獲得

「これまでAIに関わったことがない社員が優勝したことからも、このプロジェクトが新たな人材発掘のきっかけになったと感じています。こういう機会を今後も増やしていきたいですね」と語る和田。しかし、会社として、本来の業務ではない取り組みを支援することにハードルはなかったのだろうか?

「運営にはそれなりの予算が必要ですし、業務内の活動でもあったので、社内では当然、“なぜDNPが行うのか”が問われます。そこで、経営層に対しては『AIエンジニアの育成につながるとともに、社外の大会で結果を出すことで、IT企業としてのDNPを国内外にアピールできる』という点を強くアピールしました。すると、事業部の担当役員やDDSの社長などから、『やるなら、とことんやれ』という言葉が。こうした決断が早いのは、DNPの良いところかもしれませんね。結果、世界1位・2位を輩出したわけですから、人材育成だけでなく、ITに注力するDNPの姿勢を最大限にアピールできたのではないでしょうか。一所懸命にやることを後押ししてくれた人たちに応えることができて、個人的にもホッとしています」と和田は説明する。

惜しみなく知識を提供する“フィードバック精神”が社内の連携強化に

このプロジェクトでは、楽しみながらスキルを身に付けるだけでなく、クラウドを利用する上で必要な、当事者意識を持って主体的に関わる“オーナーシップ”能力の向上や、各自が培ったAIの機械学習に関するノウハウや知識を共有し、広く世の中に還元していく“フィードバック精神”を身に付けることも目標に掲げている。この“フィードバック精神”は、社内の横のつながりを強化し、社員のモチベーションを高めるきっかけにもなっている。プロジェクトのメンバーは次のように話す。

「大阪のオフィスで活動を続けていたのは私だけでした。近くに相談できる人がいない中で続けられたのは、ほかの拠点のメンバーが情報共有してくれて、個人ではなくチームで参加している気持ちになれたからだと思います」(瀧下)

「普段仕事で関わらない人とも知り合うことができて、人脈が広がりましたね。事務局では月1回の社内レース用にトロフィーを作ったり、イベントに出るときに揃いのTシャツを着たり、モチベーションを高める取り組みをしてきました。このノウハウは、別の機会にも活かしていけると感じています」(大野)

インタビューに答えるDDS日暮

「僕が所属するDDSでは通常、システム構築などのいわゆる裏方業務が多いので、今回メディアに取り上げてもらって注目されたことが、社内への良い刺激になったと思います。今後も、モチベーションが上がる、レベルの高い活動を続けることで、自他ともに認める勢いのある会社にしていきたいです」(日暮)

また、自ら学んだことを周りの人たちにも伝える“フィードバック精神”を象徴する活動として、DNPの東京・五反田の拠点で、自社で作成した専用のオリジナル・コースを広く公開し、社外のエンジニアも参加できるレースイベント「AWS DeepRacer GP (Grand Prix) powered by DNP」を開催。その他にも社外のイベントに参加して、座学とトレーニングと実機でのレースをセットにしたワークショップを子ども向けに開催したり、早稲田大学の「SmartSEプログラム」の講義に講師として登壇したりしてきた。

「特に日本大会で優勝した後、我々の体験を世の中に還元したいという思いが強くなりました。こうした活動も大事に続けていきたいです」と和田は話す。

DNPの東京・五反田の拠点で開催したレースイベント「AWS DeepRacer GP (Grand Prix) powered by DNP」

世界大会での成果は、あくまで入り口。
AIエンジニア育成の“質と量”をさらに深めていく

AIの社内勉強会を補完し、人材育成の効果を高めようと始まった今回のプロジェクト。国内外のレースでの優勝などは、あくまでも新しい価値創出のきっかけにすぎない。「今回の活動を点ではなく、線に、そして面にしていかなくてはならない」と和田。

「すぐに高度なサービスを開発できるわけではありませんが、まずは今回のメンバーを中核として、AIを活用したプロダクト開発を進めていくつもりです。また、人材の裾野を広げるために『AWS DeepRacerリーグ』への参戦は継続していく予定です。そこでも、今回のメンバーがインフルエンサーとなって、それぞれの部署の仲間たちに“AIを学ぶ楽しさ”を広めていってもらえればと思っています」(和田)

AIに限らず、企業の人材育成にはさまざまな課題がある。そうした課題に対し、今回のDNPの社員が一体となった取り組みは、ひとつのヒントとなるモデルと言えるだろう。短期間で世界レベルの実力を習得するに至った初期メンバーを起点にフォロワーが生まれ、成長し、新たなインフルエンサーとなる“人材育成の好循環”を生み出しつつある本プロジェクト。その成果に今後も注目していきたい。

インタビューに答えてくれたプロジェクトメンバー 左から日暮敬行、大野史暁、瀧下初香、和田剛

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<こちらもご覧ください。>
動画:AWS DeepRacerを活用した AIエンジニア育成に向けた取り組み
【2019/08/20公開 2分40秒】