5G通信の普及によって人々の生活は大きく変わると言われており、今から5Gを後押しする通信環境の整備が必要となる。5Gの電波は従来よりも届く距離が短く、直線的にしか届かないため、その特性を考慮したアプローチが必要となる。こうした課題を解決するフィルムアンテナについて、入社3年目で開発リーダーを任された石田太郎が語る。聞き手は、国内約7,400台の証明写真機「Ki-Re-i」の価値向上に挑む宮原舞。
「5G通信の普及には多くのアンテナが必要。だから、どこにでも溶け込むアンテナをつくりました」
石田これがフィルムアンテナです。
宮原薄い! 柔らかいけど、折り曲げてみても大丈夫ですか。
石田はい、大丈夫ですよ。
宮原え…! ちょっとしか力を入れてないけど、こんなに簡単に曲げられる!
石田ちょっとビックリしますよね。5G通信で使用される電波は遠くまで届かなかったり、直線的にしか飛ばないので障害物に弱かったりします。つながらない場所がまだまだ多いというのが現状の課題です。通信可能なエリアを拡大させるためには多くのアンテナが必要なのですが、従来のアンテナは四角く大きい箱のようなものなので、それがビルの上や電柱など、街なかにあふれていたら、どう感じますか?
宮原景観的にちょっとイヤですね。風情のある観光地とかだと特に…。
石田そうですよね。そこで、街灯や電柱に巻きつけて使えるようなフレキシブル性と、街の景観に溶け込む意匠性を持たせたいと考え、つくり上げたのがこのフィルムアンテナです。従来の箱型のアンテナだと、ホテルや商業施設では気にされる方がいるのではないか、と思ったことが発想の起点でした。だから、「景観に溶け込むような意匠性のあるアンテナ」というコンセプトで開発を続けてきました。
宮原アンテナに木目のシートを貼っているんですか?
石田はい、そうです。木目調だけでなく、大理石調とかいろいろなデザインがあるんですよ。電柱や街灯、それから室内でも違和感なく貼れるように考慮しています。小型で薄いので、簡単に貼りつけられるのも特長です。
宮原もうすでに街なかでも見られるんですか?
石田もう少しだけお待ちください! 対外的にはすでに発表していて、2023年中に量産できるように開発を進めているところです。今は、パートナー企業と協働して実証実験を行っています。
「入社3年目で開発リーダーに。若手とベテランがうまく融合している会社です」
宮原フィルムアンテナの開発で、石田さんはリーダーを任されているんですよね。
石田入社して3年目のときだったので、驚きました。私の部署では、先輩たちのサポートのもと、若手には積極的にプロジェクトの中心に立ってもらおうという風土があります。
私はそれまで開発や設計を担当してきたのですが、リーダーになると他の人の進捗管理や、開発以外の部分の把握も行わなければなりません。最初は何をしていいかも分からず戸惑っていましたが、先輩がフォローしてくれたおかげで、ものおじせず進めることができています。
宮原実は私も同じ年に入社した同期ですが、責任重大なポジションを任されていてすごいと思います! ほかにはどんなことを意識していますか?
石田特に意識しているのは、社内で繰り返し言われている「オールDNP」ですね。グループ内の事業領域の壁を越えて連携することです。やはり単独の部門ではできることが限られるので、あらゆる強みを掛け合わせることで新たな価値が生み出せます。フィルムアンテナも、他の事業部門が持っていた技術を活用することで完成させることができたんです。実は、住宅のフローリングなどに使われているのと同じ技術を使っていたりするんですよ。
宮原そうだったんですね。私が所属しているイメージングコミュニケーション事業部でも、「オールDNP」としての部門間連携を積極的に進めたいという意識が高いです。
石田さんはDNPにどのようなイメージを持って入社したんですか?
石田「幅広い事業領域を持っている会社」「常に新しいことに取り組んでいる会社」というイメージです。それこそ、私が今取り組んでいる通信関連の分野は、DNPとしても新しい事業領域です。今まさに新しいことにチャレンジできている実感があります。宮原さんはどうですか?
宮原私のイメージは、DNPが提供している製品・サービスは、「実は生活に溶け込んでいる」ということです。気づいていないけど、生活の中で自然とDNPの仕事に触れていることってありますよね。本や雑誌の印刷もそうですが、食品のパッケージだったり、ICカードだったり、半導体の関連だったり…。幅広く世の中の役に立てているということに惹かれて入社しました。
石田気づかないうち…というところがDNPっぽいですよね。
宮原はい。でも、できればもっといろんなところで、「DNPがこれをやっているんだよね。知っているよ」って言われたいです。学生さんには「紙への印刷をしているだけの会社ですよね」と言われることもあります。紙への印刷ももちろんですが、それ以外にもあらゆる事業領域に取り組んでいて、それが普段の生活に役立っていることを知ってもらいたいですね。
石田そうですね。自分は「縁の下の力持ち」という立ち位置もかっこいいと思っていますが(笑)、そんなことを言いつつも、フィルムアンテナを世の中に出すことで、DNPのイメージを変えることができたら正直、うれしいです。DNPが通信の分野に挑戦していることもまだまだ知られていないと思うので、5Gがもっと普及したときに、「DNPのおかげ」「さすがDNP!」となったらいいなと思っています。やっぱり自分たちの会社を多くの人に知ってもらうことも大切ですよね。
「暮らしに溶け込む5G。他にも5Gの普及に向けた技術群があるんです」
宮原このフィルムアンテナをどんな場所で使いたいとイメージしていますか?
石田壁面などの平面ももちろんですが、直径15cmくらいの円柱状のものに巻きつけるように曲げられるので、曲面でも使っていきたいです。デザイン的にも、屋外でも屋内でも景観に馴染ませることができます。
具体的には5Gを使う人がたくさん集まる場所。たとえば、商業施設やコンサート会場のほか、スマートファクトリーという考えが主流になっていく工場も対象にしたいと思います。
宮原なるほど! 私は、“多くの人が集まる場所”と聞いて思い浮かんだのが、渋谷のスクランブル交差点です! 単純に人が多いというだけではなく、観光客も多いので、データがいっぱい通信されそうじゃないですか?
石田確かにそうですね! 同じような観点ですが、景観を大事にする観光地。たとえば京都などでも使ってほしいですね。
宮原そこは木目調で! フィルムのデザインパターンが増えてくると、使える場所も増えそうですね。
石田そうだと思います。
宮原では、新しい展開として、私たちが扱っている証明写真機の「Ki-Re-i」とコラボするとしたらどうでしょう?
石田フィルムアンテナは単体では機能せず、電源が必要になります。「Ki-Re-i」のように、全国各地の街なかに設置されているものを基地局化できると良いかもしれません!
宮原「Ki-Re-i」を電波を供給していく拠点として活用していくってことですね。
石田そうです。「Ki-Re-i」の近くだと5Gにつながりやすい、みたいな。
宮原なるほど、面白い。「Ki-Re-i」自身も全国で約6,500台がネットワーク化しているので、安定した通信環境が欠かせません。今後、置く場所を増やしていきたいですし、そういう観点からもアンテナがあると便利です。また、特に地下や屋内などの環境によっては「Ki-Re-i」の設置時に電波の届きやすさが課題になることもあるので、そういった部分をカバーしながらコラボできるといいですね!
石田コラボのイメージが湧きそうです!
宮原フィルムアンテナが広がると社会全体の通信環境が整いますね!
石田そうですね! さらに、実はDNPが取り組んでいる5G関連の製品はこのフィルムアンテナだけじゃないんです。
宮原え!
石田5Gが普及・定着するためには、「電波をコントロールすること」が重要だと考えています。電波を届けたいところにきちんと届かせて、届けたくないところには届かせないということです。DNPは、電波を意図通りの方向に反射させる「5Gミリ波反射板 リフレクトアレイ」や、電波の届かない場所をつくる「電波吸収シート」、熱を帯びがちな通信機器の放熱を助ける「ベイパーチャンバー」、モバイル機器や窓ガラスに貼っても視認性を損なわない「透明アンテナフィルム」など、独自技術を活かした多様な製品群があります。こういった製品を組み合わせていくことで、5Gの一層の普及に貢献できると考えています。そしてその先にある6G以降の世界でも同様です。
宮原すごく未来的な夢のあるお話で、なんだか刺激をもらえました。本日は、ありがとうございました!
石田こちらこそありがとうございました。今後もDNPの取り組みに注目してもらえるように頑張りましょう。
「暮らしに溶け込む5G!!!!!」
宮原…(笑)
2022年8月公開