たとえば、買い物をする、ホテルにチェックインする、ECサイトで決済をする……。あらゆる場面で求められる「本人確認」をどこでも顔認証ひとつで済ませることができたら、どれだけ便利だろう。安全・安心かつスピーディな“認証DX”について、情報イノベーション事業部/山廣弘佳が語る。聞き手はファインオプトロニクス事業部/市村公二。
「どこでも顔ひとつで“本人であること”を証明できたら? 」
山廣私たちの事業部では、顔認証を使ったマルチチャネルプラットフォームの企画開発を行っています。
市村顔認証を使ったマルチチャネル…?
山廣どこでも自身の顔ひとつで「本人であること」を証明できたら便利じゃないですか。
市村確かに便利ですね。
山廣たとえば、コンビニエンスストアや銀行、ホテルなどあらゆる業界を横断して、さまざまなサービスの「本人確認」を顔認証で行えるようにしてしまおうと。
市村なるほど。でも、プラットフォームという言葉が気になります。
山廣はい。 顔認証をさまざまなサービスで行えるようにする、つまり業界を横断するには共通のプラットフォームが必要で、そこにこそ価値があると考えています。たとえばECサイトでは使えるけれどリアルな店舗では使えない、ということがあると生活者にとって利便性はぐっと低くなりますから。
その中でDNPの立ち位置としては、この構想に携わるすべての関係者をつなぐハブとしての役割を担っています。
市村具体的にはどういったことをしているんですか?
山廣この構想を進める上では、顔認証のエンジンをつくる企業やプラットフォームに参画するさまざまな業界の企業など、パートナーとなる各社の技術やノウハウをつないでいくことが不可欠で、それに伴う細かな部分の調整ごとがたくさん出てきます。まずはこれをひとつひとつ相談しながら方針決定して、確実に進めていくことが大きな役割です。
さらにその中でDNPの強みを活かす役割としては、顔情報を蓄積するプラットフォームの構築と、その後の運用・保守の部分があります。これに対応したアプリ開発なども担っていきます。
市村重要な役割ですね。 ちなみに細かな調整というとどんなことが…?
山廣たとえば、顔写真の撮影の仕方や利用シーンによって顔認証の精度が異なってきます。
市村精度が変わるとどうなるのかな? 認証がされないとかですか?
山廣その通りです。本人なのに認証されないという「本人拒否率」や他人を間違えて認証してしまう「他人受入率」というのがあるのですが、そのさじ加減をどこに落とし込むか。利用者が使いやすく、正確に認証されるようにするためには、知見のある専門家の意見も取り入れながら、このあたりの調整をしていく必要があります。たとえば、ICカードで買い物をするときとマンションの出入口のロックを解除するときとで、同じレベルの顔認証が必要になるのか?ということから考えていかなければいけません。
市村おお、確かに。
山廣買い物のときはお金が絡むので、しっかり本人かどうかを確認してほしいじゃないですか。一方で、マンションの出入口のセキュリティだと、「本人確認」を厳しくしすぎてドアが開かなかったら困ってしまいます。
市村そういう「本人確認」レベルの違いを同じプラットフォームを使って実現できるものなんですか?
山廣はい、それを実現していきたいと思っています。
市村それはすごいですね!
山廣各業界や利用シーンを考慮しながら、「本人確認」のレベルをどう設定していくべきか、生活者の視点で検討に検討を重ねていきます。
市村生活者視点で見ると確かに便利ですよね。ただ……
山廣便利な分、“怖い”と感じませんか?
市村まさに、そこです!
山廣だからこそ、プラットフォームそのもののセキュリティが非常に重要になってきます。「本人確認」のカギとなる「顔認証の情報」をどこに置くのか、カギの置き場所となるプラットフォームをどう管理するのか、ここが大事です。
そんな中で、DNPは金融分野でのプラットフォーム事業で情報を大切に扱ってきたという実績がたくさんあります。クレジットカード決済関連や、「eKYC(electronic Know Your Customer)」と呼ばれる本人確認をオンラインで完結させるサービスなどですね。
こうした実績があるからこそプラットフォーム構築とその運用を安心して任せられる、ということが私たちが事業主体になっている理由のひとつだと思っています。
長年培ってきた知見を最大限に活かしながら、安全・安心なプラットフォーム構築を進めていきます。
「仲間づくりが大事。一社ではできない事業です」
市村なるほど。 でも、プラットフォーム事業でDNPが表に出ることはなかなかなかったですよね?たとえて言うなら、黒子気質の会社というか……。今回、DNPとして名前は表に出すんですか?
山廣はい、表に出していきます! 今回は、パートナーとなる企業とともに「その事業、DNPが進めています!」をアピールする形にしたいと思っています。
市村生活者に対してもですか?
山廣はい、そうです! DNPの名前を出すことで、便利であるのと同時に、安全・安心に利用できるサービスだと感じてもらえるようにしていきたいですね。
市村なるほど。これから社会に普及させていくためには、そういったアピールも大事ですね。
山廣そういう意味でも仲間づくりが大事で、一社ではできない事業です。そのためにコンソーシアムを立ち上げてみんなで協議をしています。
市村パートナーとの連携ですね。 DNPだからこそ、そういった事業を進められるという面もありますか?
山廣はい。 DNPはこれまで多種多様な企業と取引をしており、ほとんどの業界ともコネクションがあります。いろいろな企業とパートナーとして連携することができることはDNPの強みだと思っています。企業の垣根を越えて、それぞれが得意とする分野を掛け合わせていけば、どんどんできることが広がっていきます。それをDNPが引っ張っていきたいです。
市村確かに。でも、ひとつ気になるのが、DNPのプラットフォーム事業はこれまでBtoBが中心でしたよね。それがこの分野でBtoCに進出したときにどうなるのか? そこに対応できるほどの経験値があるのかどうか……。
山廣おっしゃる通りです。 だからこそ、さまざまな業界のパートナーと一緒に検討していくことが大切なんです。生活者との接点が多いパートナーの知見も借りながら、ともにこのプラットフォームを成長させていきたいと考えています。一社だけですべてをやる必要はないので、やっぱりそれぞれの強みを掛け合わせていくことが重要ですね。
「便利なだけじゃない、いつ誰にとっても安全・安心な社会の実現へ」
市村まずは、このプラットフォームを、どういった業界やサービスから広げようと考えているんですか?
山廣んー、いろいろありますが、わかりやすいのは「入退」ですかね。皆さん、ゲートで顔をかざすことには、それほど抵抗はないと思うんですよ。例えば、遊園地だったり、コンサート会場だったり、各会場の入退場の場面を考えていただくとイメージしやすいと思います。会場に入った後のお買い物なども顔認証だけでできるようになりますね。
市村でも、チケットって今、オンラインで購入することが多いじゃないですか。その際に、顔情報を登録するんですか?
山廣はい、チケットを購入する際にスマホなどで登録します。
市村つまり、スマホで撮影した写真で認識ができるということですよね。
山廣そうです。生活者にとってハードルが高すぎると普及しにくいので、身近なスマホで撮影した写真でも撮影環境を満たしていれば顔認証に使えるようにします。
それと、もうひとつ大事なことは、そのときに顔情報の利用用途についてしっかりと明示して同意を取ることです。生活者の目線で見た場合、自分の顔情報の利用範囲を自分で選べたり、その情報を削除したいときにはすぐに削除したりできるようにしたいですよね。
市村その方が安心して使えますね。
山廣はい、顔情報は大事な個人情報でもあります。利用に対する不安を取り除くためにも、法的な観点からもしっかりと設計していかないといけません。
市村なるほど。そうした課題をクリアして、この顔認証が世の中に普及して使えるようになったとしたら、とても便利になりますね! 私は今もほとんど現金を持ち歩かない主義ですが、これからは自分の顔さえあれば、いろんなことができてしまうんですね。
山廣おっしゃる通りです! さらに、この顔認証が普及したときには、災害などの緊急時にも役に立つと考えています。緊急に迫られた状況で避難などをするときに印鑑や通帳を持っていけませんよね? でも、こういったサービスがあれば本人確認がすぐにできますし、必要な支援が受けられるようになります。そういったことが「あたりまえ」に実現すれば、便利で、安心で、素晴らしい社会になっていくのではないかと考えています。
市村ほんとにそうですね。そして私は、こういった業界横断的なプロジェクトに対して、DNPが前面に出て引っ張っていこうという前向きな姿勢が、社員として何より誇らしいです。
山廣んふふ、どんどんチャレンジしていきますよ~。
市村チャレンジ精神は、会社が掲げている「オールDNP」の活動にもつながりますね。グループ内の事業領域の壁を越え、あらゆる強みを掛け合わせて、総合力を発揮していくという。
私たちが取り組む半導体製造の先端技術「ナノインプリントリソグラフィ」と、山廣さんが担当している「顔認証プラットフォーム」でも、何かコラボレーションできますかね?
山廣うーん。これまでは、正直なところ、半導体の存在を意識することはあまりなかったです。
市村あはは。
山廣でも、顔認証のマルチチャネルプラットフォームを実現するためには、カメラを始めとしたさまざまなデジタルデバイスが必須になります。それらには必ず、半導体が内蔵されていますよね?
市村そうですね。
山廣半導体不足が叫ばれる昨今、その重要性を意識することが増えたのも事実です。それに関連する技術をDNPが培ってきていて、しかも最先端のものを生み出している。これはスゴイことだと思っています。
市村ありがとうございます! 半導体はさまざまな場所で使われていますからね。
山廣そう考えると、顔認証マルチチャネルプラットフォームの普及にも半導体が不可欠なのは間違いありません。そのときに市村さんたちが持つ半導体技術が必要になってきますね。
市村なるほど。ありがとうございます。
山廣ぜひお互いに協力しながら「未来のあたりまえ」をつくっていきましょう!
市村はい、ぜひよろしくお願いします! 今日は、未来につながる非常に有意義な対話をすることができました。ありがとうございました。
山廣こちらこそ、ありがとうございました!
DNPは、本人の確認や認証が必要となるさまざまな場面で、最適な認証の仕組みを組み合わせ、セキュアなサービスを総合的に提供する「認証DX」を推進しています。
日本で古くから認証のしるしとして使用される「印章」をモチーフとしたこのマークに「認証DX」推進の思いを込めています。
https://www.dnp.co.jp/biz/solution/products/information_security.html
2022年3月公開