2020/11/20

GIGAスクール構想の進展を受け、クローズアップされる教育データ利活用
―Edvation×Summit2020 Onlineセッションレポート―

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11月3日(火)~11月5日(木)EdTechグローバルカンファレンス「Edvation x Summit 2020 Online」が開催され、教育委員会や学校関係者をはじめ、のべ5000名以上の教育関係者が約30のセッションにオンラインで参加しました。

セッションでは、全国のデジタル世代小中学生がWithコロナの学び方や学校の役割について平井大臣と討論したセッションなど、いま関心の高いテーマに注目が集まりました。

また、GIGAスクール構想が進展、「個別最適な学び」への理解が深まるなか、「教育データ」「スタディ・ログ」活用について、複数のセッションでキーマンの言及がありました。
経済産業省の有識者会議「『未来の教室』とEdTech研究会」の座長、津田塾大学総合政策学部 森田朗教授もセッション「『教育×クラウド』~日本のこれからの教育のために〜」では、教育データを安全安心な環境であたりまえに使う、そのうえで個別最適な学びを作るべきこと、法政大学 情報メディア教育研究センター・常盤祐司客員所員は「教育現場における教育者とAIの役割とは何か?」セッション内で、「AIによる新しい学びのカタチと可能性」について、今後は学習ログが非常に重要になってくると指摘しました。
政府「教育再生実行会議デジタル化タスクフォース」、中教審「新しい時代の初等中等教育の在り方特別部会」、文部科学省も「教育データの利活用に関する有識者会」での検討を加速させている教育データ活用。
「教育データ」「スタディ・ログ」活用についてはイベント全体のキーワードともなっていましたが、そのなかで「教育データ利活用」を正面から議論した2つのセッションを下記にレポートいたします。

なお、2つのセッションについて動画アーカイブ視聴が可能です。下記の「お問合わせ」フォームよりお申し込みください。(自治体・学校の方に限らせて頂きます)

■教育データ活用の推進を担う文科省、先端的な取り組みを進める奈良県のキーマン3人が語るセッションはこちら

■ステップで教育データ活用の実践を進める自治体と、先端企業の登壇セッションはこちら

■「教育データ利活用の今とこれから」

一般の先生方、教育関係者に代わって「教育データの利活用とは何なのか」を質問したいとした赤堀会長のメッセージに応え、これを推進する国や自治体、研究者が今何を目指しているのかが語られるセッションとなりました。
登壇者:
小崎 誠二(奈良県教育委員会 県立教育研究所主幹)
桐生 崇(文部科学省初等中等教育局企画官・学びの先端技術活用推進室長)
赤堀 侃司(東京工業大学名誉教授、ICT CONNECT 21会長)
田村 恭久(上智大学 理工学部 教授)

●国が描く「教育データ活用」

文部科学省初等中等教育局企画官・学びの先端技術活用推進室・桐生室長が「新時代の学びを支える先端技術活用推進方策」の資料を示し、国の取り組みを解説。
教育データ活用が可能にすることとして、時間・距離の制約を取り除くこと、校務や事務効率化を挙げ、個別に最適な学びや支援、ビッグデータとして活用することで学びの知見共有や生成への期待をこれまで出来なかったこととして加えた。

また、そのための今の国の取り組みとして、言葉を合わせる(データ標準化)、データをまとめる機能(スタディ・ログ、学習履歴利活用の環境整備)、データから有意義なものを導き出す(ラーニングアナリティクス)を紹介し、学習指導要領コード活用としてデジタル教科書から教材・学習ツール、教育施設のアーカイブを、スタディ・ログをもとに関連付けして活用する例を示した。

その上で現在の段階を、ICT環境の整備はこの構想の第一歩で、GIGAスクール構想で一人1台データ利活用の基盤が整いつつある認識とした。

(イメージ)「新時代の学びを支える先端技術活用推進方策(最終まとめ)」より

●データは「個人のもの」、活用基盤の整備を進める奈良県

続いて奈良県立教育研究所の小崎主幹がプレゼンテーション。
データ活用を学校にどのように具体的に進めるかが自身の役割とし、国の取り組みと呼応しデータ活用の前段階を仕込んでいる認識を示されました。
「データは個人に紐付く」前提から、奈良県域として幼稚園から大学までデータを共有、同じルールでの運用を模索してきた経緯を説明、統一校務システムの運用開始、一人1IDの統一アカウント整備、学習系システムの12月からの運用に至った現状を紹介しました。

(イメージ)奈良県域でのデータ活用

●GIGAスクール構想の環境整備をきっかけに本格化するデータ活用

続いて上智大学の田村教授が、学習データ研究と技術標準化の立場からプレゼンテーション。
学習履歴分析の研究領域が10年ほど前から始まったとし研究の変遷を紹介。GIGAスクール構想の一人1台端末整備を受けデータ収集できる素地が出来てきたと指摘、今後は集めたデータをどう使うかが論点とした。
条件を限定したこれまでの「実験」から、現場へ展開する際には課題があるとし、データ標準化、利活用の制限や保護、運用するうえでのサーバ分散など検討が必要とした。

(イメージ)教育データ実用化への課題

●データは「主体性・当事者性を持って学んでいく」武器

データは子どもたち自身に紐付くという、これまでにない考えに対しての懸念や是非について話題が及び、最後は「子どもたちが自分で将来を考えるためにデータがある時代を目指したい」(小崎主幹)、「教育データが記憶やカン、何となくやってきたことをデータで処理することで、個人が主体性・当事者性を持って学んでいく武器になる」(桐生室長)としてセッションを締めくくった。

■「スタディ・ログの活用が始まった!個別最適化された学びへの挑戦」

教育データの活用実践をテーマとしたこのセッションでは、スタディ・ログ活用を進める自治体、学びのサイクルを担う教科書、ドリル、テスト分野でスタディ・ログの活用提案を行う企業が登壇しました。
登壇者:
中川 一史(放送大学 教授)
後藤 幹夫(相模原市教育委員会 教育局 学校教育部 教育センター学習情報班 担当課長)
森下 耕治(光村図書出版株式会社 ICT事業本部 副本部長)
菊地 秀文(大日本印刷株式会社 教育ビジネス本部 事業企画部)

●教員の「働き方改革」からスタディ・ログ活用に進化する相模原市

まず相模原市教育委員会・後藤課長がプレゼンテーション。
相模原市では校務の情報化を掲げデータ活用を視野に入れ取り組みを進めてきており、さまざまな校務データの蓄積から次の段階が見えてきたといいます。
学校での多忙な校務とりわけ成績処理が勤務時間外に多くの時間を割かれていることから改善に着手した経緯が話されました。テスト集計・アンケート集計に使えるデジタル採点システムを、令和元年度より中学校全校に採用、紙データをデジタルデータに変換して校務の効率化を行う事例を動画で紹介しました。

(イメージ)動画キャプチャ

これまで1クラス分2時間30分掛かっていた採点・集計が1時間に短縮、肌感覚から、データでクラス間の違いや個人の課題を捉えられるようになったリアルな姿を提示しました。
動画に登場した教員からは「考える余裕もなかった今までから、データを基にどんな指導をしてこの結果が出たのかを振り返ることができるようになった」と、リアルなコメントも。
データを活用する第一歩が「働き方改革」で、電子化することで「データ活用」が始まってきたこと、そこで初めて「スタディ・ログ活用」の次の課題が見えてくると総括、3年のステップで、デジタル採点システム導入からスタディ・ログ活用へ向かう道筋を語りました。

(イメージ)相模原市の描くステップ

●テストとドリルの連携で「評価と指導の一体化」を目指す

DNPからは小学校教員の経験を持つ菊地秀文がプレゼンテーション。日常の指導の評価(テスト結果)をスタディ・ログとして、ドリルの復習のスタディ・ログとつなぐことで、結果として「指導の改善」が可能になる考えを提案しました。
GIGAスクール構想の端末を使いテストとドリルを自動的に連携、AIで個に合わせた復習レコメンドを実現する考え、スタディ・ログの「見える化」を可能にするダッシュボード機能を提案しました。また、各企業の教材や学習ツールを横断して提供する構想も示しました。

(イメージ)スタディ・ログ活用による授業デザインの改善

●学習者用デジタル教科書によって「学びの過程」を可視化

最後は光村図書出版のICT部門を率いる森下副本部長がプレゼンテーション。GIGAスクール構想の端末で活用する、学習者用デジタル教科書・教材を紹介。「自ら考えたこと」の可視化のしやすさをメリットとして挙げました。

また独自の編集機能である「マイ黒板」で実現を目指す「思考の可視化」について説明。
「マイ黒板」は、自分だけの黒板にカード状の抜き書きや分類ができるもの。先生の発問と子どもの発言による「板書」と、これをノートに取る活動で進められてきたこれまでの授業は、全員の思考が動いているか、先生が子どもの思考を把握できているかが捉えられない課題があったと指摘、マイ黒板ではこれが可能になると紹介しました。
これによりデジタル教科書の書き込みなど、学習の「成果」が「学び(思考)の足跡」となり、子どもの考えた過程が可視化されることで課題の発見や新たな評価や指導につながると説明しました。

(イメージ)マイ黒板での抜き書き

●経験則に科学的視点を加えることで一人ひとりの「学びの保障」につながる

中川教授は各プレゼンテーションを総括してコメント。
スタディ・ログ活用の今後として、集計したものから何を発見するのか、発見したものをどう診断するのか、診断したものをどう指導に活かすのか、の事例の蓄積が必要と指摘、経験則に科学的視点を相乗効果とすることで、一人ひとりの学びの保障につながるとして、セッション締めくくりました。

(イメージ)スタディ・ログ活用の可能性

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