福岡県様 公益財団法人福岡県リサイクル総合研究事業化センター様

福岡県とDNPが取り組む「医薬品ボトル」のリサイクル実証|
「環境配慮設計ガイド」導入事例

2022年4月に「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律(通称:プラ新法)」が施行されたことを受け、企業や自治体ではプラスチック使用製品の自主回収、再資源化の努力をすることが求められるようになりました。

こうしたなか、先進的な取り組みを行っているのが福岡県です。同県では2022年から薬局で使われている医薬品ボトルを再資源化する実証事業を実施。2023年度はDNP GREEN PARTNERも本事業に参画し、新しいリサイクルのスキームづくりに取り組んでいます。
(本記事は2024年5月に取材した内容をもとに構成しています。)

プロジェクトを担当する福岡県 環境部循環型社会推進課の松村省吾氏(写真中)、(公財)福岡県リサイクル総合研究事業化センターの大塚世志子氏(写真左)、DNP Lifeデザイン事業部の柴田あゆみ(写真右)の3名に、プロジェクトの成果と今後の展望を語ってもらいました。

プロフィール

福岡県
環境部循環型社会推進課 事業化推進係 事務主査
松村省吾 氏

公益財団法人福岡県リサイクル総合研究事業化センター※
プロジェクト推進班 主任技師 
大塚世志子 氏

大日本印刷株式会社 Lifeデザイン事業部
ビジネスクリエイションセンター サービス開発本部 環境ビジネス推進部 1グループ
柴田あゆみ

  • 資源循環型の社会経済システム実現に向け、産・学・官・民という共同研究体制でリサイクル技術と社会システムの開発を行い、その実践を支援する中核的な拠点として2001年に設立された公益財団法人。
    https://www.recycle-ken.or.jp

廃棄されていた医薬品ボトルをリサイクル

福岡県が「使用済医薬品ボトルの回収・再資源化に関する実証事業」をスタートさせた背景を教えてください。

松村氏(福岡県)
福岡県では2020年から県全体でプラスチックごみ削減を進めるため、業界団体や消費者団体と協力して「ふくおかプラスチック資源循環ネットワーク」を立ち上げて、課題等に関する意見交換を行いながら、事業者の設備導入支援や県民向けの啓発活動などに積極的に取り組んできました。

こうしたなか、2022年に「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律(通称:プラ新法)」が施行されたことを受け、福岡県として先進事例をつくりたいと考えました。事業者のリサイクルを支援するスキームをつくる実証事業を行うにあたり、さまざまな業界団体にヒアリングを実施。まずはどの品目をターゲットにするかを検討しました。

そこでテーマとして挙がったのが、薬局で使われているプラスチック製医薬品ボトルです。医薬品ボトルは汚れが少なく、プラスチックとしての品質も高いのに、これまではほぼ焼却処分されていました。こうした背景から、本県と福岡県リサイクル総合研究事業化センター(以下、リ総研)は、医薬品ボトルの資源循環のスキームをつくるための実証事業を福岡県薬剤師会と協同してスタートしました。

福岡県 松村省吾 氏

リ総研は、今回の実証事業で福岡県とともにプロジェクトの推進に携わったとうかがっています。改めて1年目の取り組み内容と、見えてきた課題を教えてください。

大塚氏(リ総研)
実証事業1年目は福岡県内にある3地区の薬剤師会の協力を得て、使用済み医薬品ボトルを回収し、ペレットと呼ばれるプラスチック樹脂に変えてから新たな製品をつくるという一連の流れを実施しました。

薬局にて使用済み医薬品ボトルを洗浄し、ラベルをはがして、一定量が溜まったら基幹薬局に持ち込んでもらったのですが、初めての試みということもあって薬剤師の方は大変だったと思います。ただ、「慣れれば負担は大きくない」という声もあり、継続して実施することに前向きの意見が多く寄せられました。

また、回収したボトルからつくったプラスチック樹脂を用いて、プロダクトの試作としてリサイクル材100%のピルケースを製作しました。しかし、成型方法と樹脂の特性が合わず、フタの緩みや縞模様ができてしまうなど、成型がうまくできませんでした。このため、当初は完成したプロダクトを薬局に還元する予定としていましたが、薬局への配布は見送りました。

(公財)福岡県リサイクル総合研究事業化センター 大塚世志子 氏

実証事業の2年目からはDNPが参加しました。どのような経緯だったのですか?

柴田(DNP)
福岡県様が医薬品ボトル回収の実証事業をスタートさせた直後から、「DNPとして何かお手伝いしたい」と考え、福岡県様にお声がけをしました。ディスカッションを重ねるなかで、特にプロダクトづくりの部分でDNPが持つ知見を活かせると思いました。

さまざまな素材が混ざったペレットは成型が難しい原材料です。DNPでは環境配慮型パッケージ「GREEN PACKAGING®」を扱っているほか、リサイクラーと協業して再生プラスチックから新しいプロダクトを生み出す共創プロジェクト「Recycling Meets Design®」を手掛けています。リサイクルしやすいパッケージやプラスチックに知見のあるDNPであれば、福岡県様の実証事業に必要なピースを埋めることができると確信しました。

Lifeデザイン事業部 柴田あゆみ

松村氏(福岡県)
福岡県としてもDNPさんにお声がけいただき、ぜひ協力をお願いしたいと考えました。

決め手となったのは、DNPさんが環境配慮製品や資源循環に取り組む企業や自治体を支援する「DNP GREEN PARTNER」という専門チームを持っている点です。環境配慮に関する知見をお持ちの上、自治体との協業をはじめさまざまな取り組みがあることから、実証事業をステップアップさせることができると思いました。

リサイクルしやすいボトルづくりに向け、ガイドラインを提案

DNPが参加した2年目ではどのような取り組みを行ったのですか?

松村氏(福岡県)
2年目は使用済みボトルの回収量を増やすため、回収スキームを見直しました。まず、薬剤師の方の負担を減らすことを念頭に、基幹薬局に直接持ち込んでもらうのではなく、医薬品の卸売業者さんに納品の際に使用済みボトルを回収してもらう形に変更。また、対象地区を3地区から5地区に拡大し、280もの薬局に参加してもらいました。

その結果、実証開始からこれまでに、1トン以上の医薬品ボトルを回収することができました。

大塚氏(リ総研)
回収したボトルを再資源化するにあたり、DNPさんから複数のプロダクトの提案をいただきました。その中から、福岡県薬剤師会と意見交換して選んだのが、お薬手帳カバーと組み立てお薬BOXです。約350kgの再生ペレットを用いて各4500個を製作しました。

お薬手帳カバー(左)と組み立て式お薬BOX(右)

2023年3月から、実証事業に参加している薬局の窓口で配布しており、協力していただいている薬剤師の方からは、「これまで廃棄していたボトルが素敵な製品に生まれ変わった」と喜ぶ声が寄せられています。また、実証事業の取り組みを紹介するポスターなどを掲示し、薬局が行っている環境配慮の取り組みを県民のみなさんにPRする機会にもなっています。

柴田(DNP)
今回のプロダクトづくりでは、リサイクル樹脂でも成形がしやすいもの、薬局で配布することで生活者の皆様とのコミュニケーションを活性化できるものという観点でご提案しました。

実際にボトルを回収する段では、ご協力いただいた薬局の皆様がラベルをはがす作業や分別などを丁寧に行ってくれたこともあり、かなり質の高いリサイクル樹脂をつくることができました。改めて、感謝を申し上げたいと思います。

23年度実証事業スキーム

このほか、2年目の取り組みを通して新しい気づきはありましたか?

松村氏(福岡県)
実際に医薬品ボトルを集めてみてわかったのですが、ボトルの素材や色、ラベルなどが多岐にわたっており、今回の実証において回収の対象外とした物も多くありました。リサイクル樹脂の質を高めるためには、リサイクルに適したボトル設計が重要だと気づきました。

そこで、DNPさんからの提案もあり、どのような素材や構成がリサイクルしやすいのかをまとめた、医薬品業界向けのボトルの環境配慮設計ガイド(中間案)を今年の3月に作成しました。すでに医薬品メーカー等からお問合わせをいただいており、医薬品業界における関心も高いと感じています。

柴田(DNP)
資源循環を行うためには、リサイクル上の課題を整理することや世の中の動向をとらえることが重要です。その意味で、DNPのこれまでのノウハウや他の自治体でのユースケースを生かしつつも、県内の関連企業・団体の皆様とコミュニケーションを密に取っていくことで、ガイドとしての精度を高めていきたいと考えています。

持続可能なスキームをつくり、循環の輪を広げていく

3年目となる2024年度はどのような取り組みを行っていくのでしょうか。

松村氏(福岡県)
今年度で実証事業が終了しますが、私たち自治体が主体とならなくても自走する“持続可能なスキーム”にしなくてはいけません。3年目の目標は、そのための土台をしっかりと構築することです。
これまでの実証で見えてきたコスト面や法律上の課題を整理し、より良いスキームを追求していきたいです。

また、“持続可能なスキーム”とするためには、リサイクルに適したボトルの設計も重要になってくるので、DNPさんの知見を借りながら、3月に作成したガイド(中間案)をブラッシュアップして、ガイドの完成を目指していきます。

大塚氏(リ総研)
実証事業が終了すると、各事業者が連携してスキームを支えていく必要があります。3年目となる今年度は、各事業者と作業面やコスト面など運用に関する部分を調整し、“持続可能なスキーム”となる環境を整えることが非常に重要です。また、リサイクルに適したボトルの設計ガイドを完成させることで、将来的に長く運用できる仕組みの構築を目指していきます。

柴田(DNP)
2年目では中間案として、医薬品ボトルの環境配慮設計ガイドを作成しましたが、3年目はこれを完成させなくてはいけません。

DNPは医薬品のパッケージも製造しており、当事者として簡単に素材を変更できるものではないことは承知しています。だからこそ、業界全体の利益に資する旗振り役として、ステークホルダーの皆様と粘り強く対話を続け、少しでも実用的なガイドに仕上げていきたいと考えています。

最後に今回の実証事業を振り返り、資源循環に取り組んでいる自治体や企業に向けてメッセージをお願いします。

松村氏(福岡県)
今回の実証事業で得た知見は、医薬品ボトル以外の資源循環を進める上でも役立つ手応えがあります。
多くの自治体がプラスチックの資源循環に向けた取り組みについて試行錯誤していると思いますので、今回の福岡県の実証がそうした方々の取組検討の一助になればうれしく思います。

加えてひとつアドバイスをさせていただくとしたら、今回の実証では、ボトルの物性に応じたリサイクル製品の検討やガイドの作成など、自治体単独では困難な部分が多くありました。その意味で、専門的な知見を持つ事業者と連携し、協業することは、非常に重要だと思います。

大塚氏(リ総研)
今回の福岡県の実証事業をきっかけに、医薬品ボトルをリサイクルすることがあたりまえになっていってほしいと思います。
リ総研では、福岡県の循環型社会構築に必要な取り組みを行うプロジェクト事業のほか、産学官民による共同研究の支援や、その研究成果の事業化を推進するためのコーディネート活動を行っているので、今後も幅広く活動していきたいと考えています。

柴田(DNP)
今回の実証事業は資源循環の第一歩として非常に意義深いものであり、この高いハードルにいち早く取り組まれた福岡県様のプロジェクトに参加させていただいたことに大変感謝しております。

一方で、松村さんがおっしゃるように、これからはいかに持続させていくかが問われます。今後も自治体の皆様、県内の薬局やメーカーの皆様と連携しつつ、少しでも早く資源循環の輪を実現していきたいと思います。

資源循環は回収して終わりではなく、再資源化して何らかの用途に活用するところまで到達しなければいけません。DNPでは、今回の医薬品分野の経験で培ったノウハウを他の分野にも水平展開し、サーキュラーエコノミーやカーボンニュートラルに取り組む全国の企業や自治体をご支援できればと考えています。

  • GREEN PACKAGINGは、DNP大日本印刷の登録商標です。
  • Recycling Meets Designは、DNP大日本印刷の登録商標です。

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