王寺町立王寺北小学校様

「小中一貫教育」を見据えた、特色ある教育活動に向けて
~奈良県・王寺町立王寺北小学校でのプログラミング教育実践~

令和4年度に町内の小中学校を統合し、2校の義務教育学校を開校する奈良県王寺町は、義務教育学校における特色ある教育としてプログラミング教育に注目。
授業を行った王寺北小学校に、取組みの内容や成果をお聞きしました。

義務教育学校開校に向けて「情報化への対応」を

王寺町では、令和4(2022)年度に町内の小中学校を統合し、2校の義務教育学校として新たなスタートを切ることが決まっています。こうしたなか、王寺北小学校がプログラミング教育に力を入れるようになった背景には、義務教育学校における特色ある教育として「情報化への対応」を打ち出したことがあり、なかでもプログラミング教育が情報活用能力を育成するカギになると考えたからでした。

「取組みを始めた平成30(2018)年当時、王寺町ではプログラミングの授業実践を行っている小学校はありませんでした。そこで、義務教育学校推進のため王寺町教育委員会が町内小中学校教員で構成するICT部会を立ち上げ、その中で調査研究に取り組みました。」と辻 雅友教諭は振り返り、まず、文部科学省が発行した「小学校プログラミング教育の手引第一版」を活用した教員研修に着手し、さらに授業実践へと研究を進めたといいます。

授業実践についての研究に当たっては、王寺義務教育学校推進委員会委員長も務める、奈良教育大学の小柳 和喜雄教授の紹介により、文部科学省の『平成30年度次世代の教育情報化推進事業~小学校プログラミング教育のための指導事例の創出等に関する研究調査~』の委託を受け取り組みました。平成31(2019)年1月には、王寺北小学校において義務教育学校における特色ある教育として、小学校に新たに導入されるプログラミング教育のあり方を探る研究授業を実施しました。

「Switched on Computing日本版」を活用した単元計画

「しかし、いざ始めるとなると、指導計画をどうするか、指導ワークシートはあった方がいいのか等々、分からないことばかりでした」と当時の状況を語ります。

そこで再度、小柳教授が推奨してくれたのが、小学校で求められるプログラミング的思考を学べる教材ソフト「Switched on Computing日本版」を活用し、指導計画を立てることでした。本ソフトは教員のスキルや指導方針などに応じて多様なアレンジができるほか、5つの授業ユニットにより、児童の学年や発達段階に合わせて学習を進めることができることが特長になっています。

児童の実態を踏まえ、付けさせたい力を明確化

辻教諭が4年生の指導計画(全6時間)を作成するために選んだのは、ユニット1.1「トレジャーハンターになってみよう」の宝箱を探し当てるという内容のプログラミングでした。その中で、「児童の実態把握」、「付けさせたい力の明確化」、「教材のアレンジ」の3つを大切にしたといいます。

「たとえば事前に学級で行ったアンケートでは、プログラミング学習に対しては意欲的ですが、大半がアルゴリズムやプログラミングの意味を理解していないことが分かりました」と指摘します。

こうした児童の実態をもとに「付けさせたい力の明確化」として学習目標(北小Ver.)として設定したのが、次の内容です。
①キャラクターに指示を出し、宝箱を見つける「指示の順番」を書くことができる(アルゴリズム)。②アルゴリズムとプログラムとの関係を理解する。③キャラクターに動きをプログラミングすることができる。④プログラムの間違いをつきとめ、直したり短くしたりすることができる。⑤友達が考えたプログラムを尊重することができる。

さらに、「教材のアレンジ」として、操作の混乱をなくすために、右を向く、左を向くなどの指示を、体を使って動作化する。操作など分からず進まない子には声掛けをお互いにしていくことや、友達との話し合いを取り入れる。指導者のねらいにより、宝箱までの道のりへの『条件』を設定するといった工夫をしたと説明しました。

おとなしい子が積極的に、児童の変容に驚く

授業の成果について辻教諭は「教科等の学習ではあまり意欲的ではなかった子がアルゴリズム発表会では自分が主役で発表するぞと意気込んだり、普段あまり積極的に発表しない子が、この発表会を契機として、他の教科でも積極的に発表するようになったり」と子どもの変容に驚いたことを挙げます。
加えて、「コンピュータが苦手というベテラン教員も、プログラミングを通じて若手との会話が増え、教え合いが盛んになってきました。」と先生方の変化にも言及しました。

一方、王寺町教育委員会の松本指導主事は、新しく開校する義務教育学校の特色ある教育として考えているのが、「グローバル化への対応(英語教育)の推進」「ふるさとの理解と愛情を育む教育の推進」「情報化への対応の推進」の3つになるとした上で、「プログラミング教育への取組みについては、王寺北小学校を中心に取り組んでもらいました。
この取組みの成果は、辻教諭からの実践についてのプレゼンテーションや授業見学などを通じて町内の他校に広げていくことで、町全体の取組みとなると感じています」と評価します。
また、町内の現5年生全員に同一内容の学習を行うことにより義務教育学校への移行時(王寺北小ともう1校が統合する)には、プログラミング教育の足並みが揃うことをメリットに挙げました。

その上で、今後の課題としては「現在はC領域でのプログラミング教育での取組みになっていますが、今後はやはりA領域でいかに取り組むかが新たな課題になってくると思います。その点からも、義務教育学校開校と今回のGIGAスクール構想におけるICT環境整備を、うまく合わせてプログラミング教育を進める必要があります」と話してくれました。

楽しみながら学んでいく工夫を評価

また、同校の実践について奈良教育大学の小柳教授は、生活における児童とコンピュータとの関わりを教員が把握し、プログラミングとの出会いの場面で、どのような力を子どもたちに身に付けさせるかを明確にしているとするとともに、「コンピュータに意図した処理を行わせるためには、自分たちとは異なり、必要な手順を考え、それを正確にコンピュータに指示しないと、思い通りには動かないことを、紙上で考えたり、互いに説明しあったり、実際にコンピュータのなかに命令語を入れ、楽しみながら学んでいく工夫がなされています」と評価しています。

なお、同校の取組みは文部科学省『※平成30年度次世代の教育情報化推進事業「『小学校プログラミング教育のための指導事例の創出等に関する研究調査』の実践」にも取り上げられています。
※未来の学びコンソーシアムと連携し、DNPが推進事務局として作成しました。

王寺町立王寺北小学校
辻雅友 教諭

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