サステナブルな暮らしとデザイン
Vol.2 自然を尊ぶフィンランドの暮らし
-後編-
DNP生活空間事業では2017年から北欧のライフスタイルやデザイントレンド情報を発信し、幸福度の高い北欧の暮らしから学んだことを、当社の提案にも活かしています。DNP生活空間事業部に所属する國東などが実際にフィンランドで視察した内容を2回に分けてご紹介いたします。今回はその後編です。
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-前編-
- 01. フィンランドのデザインを体感する
- 02. フィンランドのフィーカタイム
- 03. フィンランドの食
- 04. 地域のコミュニティを活性化させる公共施設
- 05. フィンランドで見られる環境に優しい取り組み
- 06. フィンランドの世界遺産
-後編-
- 07. フィンランドの教育
- 08. フィンランドの暮らし
- Helsinki - - 09. フィンランドの暮らし
- Lahti & Vääksy - - 10. フィンランドの暮らし
- Kimitoön & Mathildedal - - 11. Alvar Aalto(アルヴァ アアルト)のデザイン
- 12. 北欧デザインと日本との親和性
07
フィンランドの教育
KimitoönにあるDay Care Center (保育園)に訪問しました。広大な敷地内には、保育園だけでなく小学校や高齢者施設もあり、地域の人々が交流できるような環境になっています。幼稚園の外観は、大きなアート、トンボのオブジェそしてグリーンやイエローなどカラフルに塗装された窓枠で、美術館のような佇まいでした。
空間全体のコーディネートは、明るいベージュカラーの塩ビ床に、家具はバーチ材のライトカラー、壁面や収納などアクセントにグレイッシュなネイビーを取り入れ、大人っぽいコーディネートになっています。
園内に入ると、沢山の子どもたちが日本の旗を振りながら、歌を歌って出迎えてくれました。とても可愛らしかったです。
廊下の壁や収納扉にはフィンランドの四季折々の表情を見せる森のアートが描かれていました。まるで絵本の中には入り込んだようなスケール感です。
子ども向けになりすぎないインテリアでした。
何故かな、と考えていたのですが見学しているうちに理由が分かってきました。
子どもが遊ぶオモチャがきれいに整理整頓され収納されていました。側面には、中に入っているものがわかるように写真を貼るなど、子どもでも簡単に片づけができるような配慮がされていました。
機能的な家具もありました。左の写真は、子どもの洋服を着脱する際、スタッフがサポートするためのステップ。子どもだけでなく、スタッフにとっても人間工学的な配慮がされているのよ!とおっしゃっていました。右側の写真はベビー用の2段ベッドが格納されています。使用しない場合は、ベッドを収納することで、空いたスペースを有効活用できます。ベッドとベッドの間には、スタッフが子どものお世話をしやすいようスペースが設けられており、機能的な家具になっていました。
子どもだけでなくそこで働く大人のスタッフにとっても快適なデザインになるよう配慮されていました。素晴らしいですね。
左の画像はおむつ替えの台です。ボタンで昇降し、スタッフが無理のない体制で作業できるように配慮されています。右側は子ども用のトイレ空間です。日本では子ども用の小さな便器が設置されているところが多いですが、この保育園では大人と同じサイズの便器が設置されています。スタッフの方が、「みんなお家では大人と同じトイレを使うでしょ。それと同じよ!」とおっしゃっていました。
この幼稚園では食育にも力を入れています。ビュッフェ式で、什器は子どもの体格にあわせてスケールダウンされていました。子供たちはそれぞれ自分が食べられる分だけ料理を取り、食事が終わったあとは自分で下膳します。フィンランドでは、大皿で料理をシェアすることが一般的で、ゲストが居たとしても、自分の分は自分で取るというスタイルが基本です。そういった自立を促す配慮が保育園でもなされているようです。イスやスツールはテーブルにひっかけられるようになっていて、掃除がしやすい配慮がしてありました。
子どもも大人と同じ一人の人間として、小さいな頃から自立心を促す教育がされていました。
保育園を出て、5分ほど歩くと広大な森があります。雨でも雪でも子どもは外で遊びます。森の中には小屋があり、暖炉が設置され、寒いときは暖をとったり、温かい飲み物を飲めるような環境が整っていました。子どもたちは自然の中に自分たちでアスレッチックをつくり、とても活発に遊んでいました。目の前で子どもがロープから落下するようなこともありましたが、怪我が発生したとしても、自己責任。そういった経験が成長を促すとスタッフの方はおっしゃっていました。
小さな頃から、自然と共生することが遊びから学ばれるていることを感じました。みんな思いっきり身体を動かして遊んでいて可愛かったです。
08
フィンランドの暮らし - Helsinki -
高齢者向けのコーポラティブハウス
ヘルシンキのKalasatama(カラサタマ)にある、高齢者向けのコーポラティブハウスを訪問しました。こちらはアクティブシニア協会が企画したコーポラティブハウスです。コーポラティブハウスは設計の段階から住まう人々が参画し、建物の管理・運営まで自分たちで行います。このコーポラティブハウスは、48歳以上が居住できますが、実際は50歳代から80歳位の自分で生活をマネジメントできる人が暮らしているそうです。設計はKirsti Sivén & Asko Takala Arkkitehdit が手掛けています。
1階には多目的ホールも兼ねた食堂があります。スクリーンが設置されていて、映画をみることもあるそうです。キッチンはプロも使える仕様になっています。居住者は12~13名で1グループになり、6週おきに1週間、共同スペースの掃除と料理を担当します。
雨や雪が多いフィンランドならではのランドリールーム。2時間ごとの予約制になっていて、毎月の管理費により洗濯、乾燥、アイロンも無料で使用できます。ランドリールームの予約は部屋の鍵を用いて希望時間をロックさせるシステムが採用されていました。大きな乾燥ルームはシーツといった大きい洗濯物でも30分あれば乾くそうです。
屋上には可愛らしいサンルーム、テラススペースがありました。カラフルな椅子が並べられていて、オシャレなカフェのようでした。開発途中のヘルシンキの街を眺めることができ、とても開放感のあるスペースでした。プランターに植えてある植物も居住者がお世話をしています。
ヘルシンキの街が一望できるテラスでした。お好みの椅子に座ってのんびりする時間が本当に心地よさそうです。
そのほか、DIYや織物ができるサークルルームやライブラリーなど余暇を過ごす空間がとても充実していました。小さな書斎スペースもあり、毎日新聞を読むことも出来ます。
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今回の案内をしてくださったアクティブシニア教会の方のお部屋を拝見させていただきました。お部屋の中は廊下がなく、壁面でゆるやかにキッチン、リビング、ベッドルームを仕切った開放感のある間取りになっています。サンルームは厚みのある窓ガラスに覆われ、窓は二重ガラスの間にブラインドが埋め込まれていました。右の写真は水の消費量がわかるシステムです。赤い魚がでると、ちょっと使いすぎという合図とのこと。
09
フィンランドの暮らし - Lahti & Vääksy -
湖水地方Lahti(ラハティ)と、Lahtiから北に約20キロほどのところにあるVääksy(ヴァークシ)に訪問しました。いずれも湖に囲まれ、フィンランドらしい自然を楽しむことができる場所です。フィンランドの人たちは夏休みになると、このような湖水地方にそれぞれが持つサマーハウスでの暮らしを楽しみます。
Vääksyに隣接するパイエンネ湖はフィンランドで2番目に大きい湖です。人や物資を運ぶ船が運航されていて、橋は可動式で、船が通れるようになっています。1日に数回橋が持ち上がる光景を見ることができます。
街中を歩いていると生い茂る木々に囲まれた森が至る所にあります。
赤いレンガを基調とした大きな平屋が目立ちました。それぞれのお家がテラスや庭を大きくとり、色鮮やかな植物でガーデニングを楽しんでいました。使い古したレザーのバックをプランター替わりにするなど、住まい手の個性が外観からも伝わってきました。
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背の高い白樺が生い茂り、木の陰からムーミンが出てきそう!と思わず声をあげてしまいました。
サマーハウスを体験
湖畔沿いにあるコテージに実際に宿泊をし、フィンランドのサマーハウス体験をしました。おとぎ話に出てきそうな、可愛らしい2階建てのログハウスでした。テラスにはBBQセットが置かれ、玄関には子供が外で遊べる遊具が収納されていました。またこちらの母屋とは別に、サウナ専用の建物もありました。
1階にはリビングルーム、キッチン、バスルーム、洋室が1室あります。玄関から室内に入ると、パイン材の香りと木質の温かい雰囲気に包まれます。玄関収納には、おもちゃなど子どもがサマーハウスを楽しく過ごせるようなアイテムが置かれていました。キッチンには食器やカトラリー、調理器具が揃っていて、食材があればすぐに料理ができるような環境が整っています。キッチンカウンターの前には、ポッパナ織のラグが敷かれていました。
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リビングには暖炉があり、火を灯してコーヒーを飲みながらソファでくつろぐ時間が本当にヒュッゲでした。テーブルには絵本とお菓子が置かれていて、このようなちょっとしたおもてなしが、心あたたまる瞬間でした。そのほか空間を彩る可愛らしいインテリア雑貨もコーディネイトされていて、発見するのが楽しかったです。
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絵にかいたような北欧のバケーション体験ができました。夏休みの間、このような自然に囲まれた環境で穏やかな日々を過ごせるのは本当にうらやましいです。
2階に上がると、このフロアにも小さなリビングスペースが設けられています。窓からは湖を望むこともでき、1階のリビングとはまた違ったくつろぎの時間が過ごせます。さらに3つの洋室があり、それぞれベッドの下にはポッパナ織のラグが敷かれていました。空間自体が木質基調のため、ラグの多色感がアクセントになっていました。
外に出ると、森と一体化した広い庭が広がり、湖沿いにはベンチが置かれていました。ベンチに揺られ、湖畔を眺めながらコーヒーを飲む時間もまたヒュッゲでした。桟橋にはボートがあり、こちらも自由に乗ることができます。庭を挟んで、もう1棟サマーハウスがあります。こちらはライトブルーを基調としたエレガントな外観の建物でした。
サマーハウスの利用が終わったあとは、自分たちでお掃除をしてから退去します。青い外観のサマーハウスでは、セントラルバキューム式が取り入れられていました。壁面に取り付けられた孔に専用のホースを差し込むことで、掃除機の役割を果たします。2階も同じような工夫がされており、吸引されたゴミが自動的に収集されるような仕組みになっていました。掃除機の本体を持ち歩きながら掃除をする必要がなく、広いお家ならではの工夫だなと感じました。
地域の人々の交流の場である高齢者住宅
続いては、Lahtiにある高齢者住宅にをご紹介します。このエリアは近隣に、図書館、病院、公園やショッピングエリアがあり、住みやすい環境が整っています。約500㎡の大きな吹き抜けの中庭が特徴的で、外光により空調を温める機能もあります。とても開放的で明るい空間でした。
1階の食堂は開かれており、地域で働く人々の昼食の場にもなっています。居住者も人の行き来がある食堂やラウンジを好んで使っているとのことでした。イスやテーブルは共に重量感のあるしっかりとしたデザインで、高齢者が体重をかけても安心して使用できる家具でした。
私も実際にこちらでランチをいただきました。野菜を中心としたヘルシーなメニューでしたが、味が薄い、触感が柔らかいといったことはなくとても美味しかったです。
館内にはサウナ、ジム、医療相談室、マッサージルーム、美容室、ネイルサロンなどのサービスペースがあり、日本の施設を参考にした歯科治療室も完備されています。アクティビティールームには車椅子対応ができる昇降式のキッチンが備え付けられていました。また個人責任で犬を飼うこともできるため、一般住宅とほぼ同じような生活を過ごすことができます。
非常に充実したサービスが提供されていて、私も将来ここに住みたい!と思いました。
居住エリアは全長130mの廊下があり、居住者が散歩できるような設計になっています。壁面には居住者の記憶を刺激するような昔の写真が大きく飾られていました。Lahtiはジャンプスキーで有名な町であるため、ジャンプスキー選手の写真が多く見られました。ところどころ休憩できるイスも置かれています。カラフルな張地で空間のアクセントになっていました。
230の居室があり、サポートが必要な人々、自活できる人々が、それぞれのフロアで生活しています。身体の状況に応じて、フロアを移動し、移り住むことができます。各居室は約50㎡です。玄関扉の下には郵便の受け口があり、新聞も通常の自宅のように届きます。
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お一人でお住いのEさんが快くお部屋を見せてくれました。クラシカルな家具でコーディネイトされたお部屋は、とてもきれいに整理整頓されていました。ベッドルームには沢山の本と、思い出の写真などが置かれていました。サンルームもEさんのお人柄が伺えるような、可愛らしいコーディネイトになっていました。
他の方のお部屋も拝見しましたが、住まう方によってインテリアがまったく異なっていて、それぞれ自分のライフスタイルが表現されていました。
もともと自宅にあった家具が持ち込まれているので、自宅と同じような暮らしが高齢者住宅でも過ごせるのが良いですね。
シベリウスホール
Lahtiにある建築スポットとして、シベリウスホールを見学しました。シベリウスホールは、既存のレンガ造りの工場に、木造で増築した会議場・コンサートホールです。フィンランドの作曲家のジャン・シベリウスにちなんで、シベリウスホールと名付けられ、2000年に開業しました。設計はフィンランドの森をモチーフに、フィンランドの設計事務所Hannu Tikka & Kimmo Lintulaが手掛けています。
中に入ると複雑な木組みが天井覆い、建物の中に木立があるような感覚でした。木材の接合部分はドリフトピンを使って金物を隠しています。内部は木造軸組構造で、外部の音が入らず、また内部の音が外に漏れないよう工夫されています。
大きな窓ガラスからは外光が差し込み、Vesijärvi湖を見渡すことができ、とても開放的な空間でした。
楕円形をしたコンサートホールは3フロアの客席に合計1250の座席が設けられています。一つ一つのフロアがきれいに重なったレイヤー感、重厚感のある木質の素材から、格式を感じる空間でした。ホールの壁面は上演する演目によって、木質の壁を開閉し、音質を調整できるように作られています。
フィンランドでは国として木造建築に力を入れています。「Spirit of Nature」はフィンランドの木材文化協会が主催するデザイン・アワードで、のアワードを受賞した建築家の記念モニュメントがラハティに展示されています。シベリウスホールの外には、2002年にアワードを受賞した隈研吾氏の作品「 Illuminated Canopy」が2005年から設置されています。細いルーバーで構成された空間は、日光や照明によって印象を変え、車やタクシーを待つ人々を雨や風から守るような目的を果たしています。
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フィンランド郊外の暮らし - Kimitoön & Mathildedal -
Kimitoön(キミト)
フィンランドの南西に位置するKimitoönはヘルシンキから西に約140kmほどのところにある、豊かな森と湖を身近で感じることができる地域です。築100年の家を4年かけて自らの手でリノベーションし、フィンランドの自然に溶け込んだ暮らしをされているJさんのお家に伺いました。外観はもちろんのこと、内装もご自分でリノベーションされています。2階建ての住宅で、1階はクラシカルな印象の草花が描かれたイエローベースの壁紙と、グリーンのテーブルリネンが映える明るい空間でした。
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お家の周りには豊かな森が広がり、野生のシカやウサギをみかけることができます。フィンランドでは、森はみんなのものであり、自由に散策し、生息しているベリーやキノコを採っても問題ありません。初夏にはシラカバから樹液を採取し、身体に良いドリンクとして飲むことができます。
白樺の樹液は、木に穴をあけて採取します。1時間ほどすると瓶が一杯になりました。味は甘みのあるお水という感じで、とても飲みやすかったです。
そのほか、Jさんのレクチャーでフィンランドの伝統工芸であるシラカバの樹皮を使ったプロダクト作りや、フィンランドの伝統的なおやつであるシナモンロールづくりを体験しました。
オリーブオイルを塗りながら、シラカバ皮の紐を交互に編んでいきます。意外と難しい・・・でもとても楽しかったです!
ふんわりと甘いシナモンの香りが漂い、コーヒーと一緒に頂くのが至福の時でした。
Mathildedal(マチルデダール)
MathildedalはKimitoönから北東に20kmほどのところにある小さな村です。テイジョ国立公園とマチルダ湖に隣接し、森と湖を真近に感じられる場所です。宿泊はこの村にあるHotel Mathildedalに泊まりました。 このホテルは元鉄工所の建物をコンバージョンし、8つの客室を持つスモールホテルです。
客室はライトブルーの框ドアがエレガントさを引き立てるカントリーテイストの空間でした。床はダークグレーのオーク材でした。分厚い窓ガラスとヒーターがあり、夜でも寒さを感じずに過ごすことができます。朝は朝日がさす湖の景色がとても美しかったです。
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ホテルの周りには森と湖が広がり、散策すると至る所でアルパカに出会うことができます。アルパカの毛を使ったプロダクトがショップで販売されていました。アルパカの毛はウールよりも暖かく、柔らかいと言われています。
私たちが訪れたのは4月でしたが、だいぶ日が長くなっていて、夜22時過ぎとはおもえぬ景色でした。6月~7月になると23時になっても日が落ちないそうです。
このホテルの一番のポイントは朝食です。地元の食材を使用したフィンランドらしい朝食を頂くことができます。プレート中央にある黒いパンはライ麦パンです。そしてさまざまな種類のベリーを使ったジャムやジュースもフィンランドの朝食では必ずでてきます。
朝食を頂いたカフェスペースは、割れてしまったマグカップをオブジェとして使用していたのが印象的でした。朝食は素材の味を楽しめるような味付けで、さっぱりとしていてとても美味しかったです。
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Alvar Aalto(アルヴァ アアルト)のデザイン
フィンランドのデザインを語る上で、Alvar Aalto(アルヴァ アアルト)を語らずにはいられません。Aaltはフィンランドで最も愛される建築家・デザイナーで、現代でも彼のデザインは世界中で愛されています。アアルトのデザインは、フィンランドの風景から、デザインの色や形のヒントを得ているものが多く見られ、多くの作品が現代のフィンランドでも大事に使われています。日本でも人気のある家具ブランドartekはアアルトが妻アイノと共に、1935年にヘルシンキで設立しました。日本に直接訪れることはなかったものの、日本の建築や文化に共感し、それらから影響を受けたといわれています。アアルトの自邸、アトリエ他、アアルト関連の建築空間についていくつかご紹介いたします。
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Alvar Aaltoの自邸
自邸はヘルシンキの高級住宅街に位置し、アトリエから歩いて15分程度のところにあります。アアルトは1930年代に地方都市からヘルシンキに移り、1934年に土地を購入し、2年後にこの自邸を完成させました。道路側には、ほとんど窓がなく、道路に背を向けた閉鎖的な建物になっています。一方で、室内は庭側に窓がに向いていて、四季の変化と自然を感じられる設計になっています。
2階建ての建物の内部は吹き抜けになっていて、人の気配が常に感じられます。アアルトが自邸で仕事をしていた頃は、1階の一番奥の角の作業スペースを好んで使っていたそうです。大きな窓ガラスからは外の自然を見ることができ、開放感のある明るい空間でした。
書斎
暖炉脇の階段を上がると、書斎があります。この場所は妻アイノが好んで使っていたそうです。書斎には隠れ階段と隠れ扉があり、アアルトは会いたくないお客さんがくると、扉からベランダに逃げていたとか。
リビングルーム
1階のリビングルームはワークスペースに比べ、フロアレベルが低くなっています。目線の高さに変化を持たせることで、仕事とプライベートの空間を分けています。またヨーロッパの空間には珍し、ワークスペースとリビングスペースの間仕切りとして、引き戸が使われているのが大きな特徴です。リビングのソファは1920年代、アアルトが初任給で買ったと言われています。
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ダイニングスペース
リビングの奥にはダイニングスペースがあります。テーブルはエクステンションタイプで、天板は脇のキャビネットに収納できるようになっています。また調理スペースとの間仕切り部分には、両開きの食器棚になっいて、開口部からお手伝いさんの作ったごはんが、配膳されるように工夫されています。調理スペース側の壁面のエッジは丸みを帯び、外光が反射するように白に塗装されています。アンティーク感漂うダイニングのイスはアイノとの新婚旅行でベネチアから持ち帰ったものです。アアルトらしい機能美を取り入れながら、家族との思い出を感じられる空間になっています。
2階リビングルーム&寝室
リビングの暖炉の上には、アアルトの父の再婚相手がモデルになった絵画が飾られています。彼女はアアルトの人生に影響を与え、良い関係を築いていたと言われています。2階にはマスターベッドルームと子ども部屋が2部屋ありました。
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客間
ベッドの床板が通常よりも高く設置されています。これは客間の下に位置する、階段の天井高を高くとっているためです。フィンランドの一般的なシングルサイズのベッドは900mm×2100mmと言われています。体格が大きい北欧の人々のイメージですが、ベッドは小さめです。昔、就寝中に敵の攻撃があってもすぐ起き上がれるよう、身をかがめて寝ていたためという説もあります。
北欧の人は背が高く、体格が大きいイメージでしたが、アアルトの住まいはコンパクトにまとまっていて、私たち日本人にも馴染みやすい空間だと思います。
Alvar Aaltoのアトリエ
アアルトはもともと1950年に完成した自邸で仕事をしていましたが、狭いという理由で、妻エリッサと共に1956年にこのアトリエを完成させました。1963年に増築しています。アアルトの最初の奥さんアイノは若くしてなくなり、デザイナーであるエリッサと再婚。そのためこのアトリエでは三人の作品を見ることができます。1976年にアアルトが亡くなったあと、エリッサが事務所を運営していましたが、1994年にエリッサが亡くなり、アトリエは閉じられました。現在はアアルト財団が管理しています。
早速、玄関のドアノブでアアルトらしいデザインを見つけることができました。
タベルナ(食堂)
1階には当時、食堂して使われていた空間「タベルナ」があります。イタリア好きのアアルトが食堂という意味のイタリア語からタベルナという名前をつけたそうです。アアルトは、食堂全体が見渡せるという理由で、一番奥の席(写真手前左側)を好んで使っていたそうです。調理スペースとの間仕切りになっている収納は、カトラリーボックスごと取り外して、そのまま食卓に持っていける機能的なデザインになっていました。天井には布の膜がまとわれていて、照明がダイレクトに当たらないように配慮されていました。
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製図室
2階にある製図室。天窓と斜めの天井により、太陽光を取り込みやすくしています。現在はアアルトの描いた設計図やプロダクトのプロトタイプなどが展示されています。1階から2階への階段に取り付けられた手すりにも、アアルトらしい使い手を配慮した優しいデザインになっていました。
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製図室に併設しているミーティングルームです。この部屋は中庭に向いていて、太陽光下で作品の確認ができるスペースが、天窓の下に設けられてます。また自邸と同様に、欧州にしてはめずらしく、引き戸が採用されています。さらにこの引き戸には製図室側にノブが取り付けられていません。扉を閉めているときは、集中してミーティングをしているから中に入ってくるな、いう意図を示ししていたとか。
アトリエ
1階にあるアトリエは、中庭に沿って曲線を描き、奥に向かって広くなるような空間づくりがされています。白を基調とし、明るく開放感のある空間です。奥には試作品を上から検証するためのハシゴが設置されていました。さまざまな照明下でも検討できるよう、複数のペンダントライトも設置されています。アアルトがさまざまな角度から試行錯誤しながらデザインをしていたことが伺えます。
アアルトデザインの代表的なプロダクトの一つであるスツール60は、曲木の技術で特許を取得しています。曲木の過程がわかるようなサンプルが置かれていました。フィンランドに沢山ある木材を活用し、機能性と美しさを伴ったデザインであるため、今でも世界中の人々に愛されるサステナブルな作品の一つとなっています。
1.フィンランド の白樺の木にスリットを入れる。2.そこに接着剤で白樺の木を埋め込む。3.熱をかけて曲げる。4.研いできれいに。
中庭は自然にあふれ、野生の動物や鳥が度々訪れていました。この中庭を眺めながら、四季の変化を感じ、作品作りに活かしていたのではないでしょうか。アトリエの壁面は木毛セメント板に塗装がほどこされていて、断熱性とサステナビリティが考慮されていました。
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私たちが訪れたときには野生のリスがいました。
アアルトのデザイン活動において、フィンランドの豊かな自然が、常に身近にあったことを実感できました。
アカデミア書店
アアルトが1969年に設計した国内最大の書店です。ヘルシンキの中心地、ストックマン・デパートの向かいにあり、現在も地元の人々に愛されている書店です。地下1階から地上3階の構成で、店内は回廊式の吹き抜け空間です。天井には立体的なガラスの天窓が設置され、外光が降り注いていました。2階にはアアルトの名前の付いたカフェが併設されています。白い大理石を基調とした空間で、ゴールデンベルと呼ばれているペンダントライトの真鍮が煌びやかに空間を彩っていました。
同じアアルトカフェが2019年、京都にも開業しています。
日本に居ながらアアルトの世界観を体感できます。
Finlandia-talo (フィンランディアホール)
アルヴァ・アアルトが設計し、1971年に完成したフィンランディアホールは、ヘルシンキのコンサートホール兼会議場です。トーロ湾沿いの公園に隣接しており、海の青、公園の緑と建物の白の対比が美しい建築です。外壁はイタリアのカラカッタマーブルを使用しています。
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館内は5つのホールを持つMain Bulding、Congress Wing、Verandaで構成されています。館内全体の設計はもちろんのこと、家具や照明もアアルトのデザインです。アアルトのデザインとして有名なARABIA社製造のかまぼこ型タイルも多用されていました。
Restaurant Savoy(サヴォイ)
ヘルシンキの目抜き通りである、Eteläesplanadi(エスプラナーディ)通りにあるTeollisuuspalatsiビルの最上階に位置しています。1937年にAalt夫妻が内装を手掛けました。テラスからはヘルシンキの美しい景色を望むことができ、目の前に広がるEsplanadi公園の木々を見下ろすと小鳥のさえずりが聞こえます。このテラスで育てられたハーブが料理にも使われています。内装は、2020年にイギリス人デザイナーの0Ilse Crawfordによってアアルトのデザインを引き継いだ形でリニューアルしています。
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お料理はフィンランドの素材を使ったフレンチスタイルです。見た目も美しく、素材を活かした味がとても美味しかったです。
家具や照明は全てアアルトがデザインしたartekのものが使われています。中でも照明のデザインがとても美しく印象的でした。左側の画像はエレベーターを降りたレストランの入り口部分、右側の画像はレストラン内部の写真です。光の陰影もきちんと計算され、空間を優しい光であたたかく包み込んでいました。
artek
ヘルシンキにあるartekショールーム(旗艦店)はメインストリートKeskuskatu(ケスクスカトゥ)通り、ストックマンデパートの向かいに位置してます。1921年に完成した建築物の中に、2階建て構成で店舗は位置しています。店内は2016年3月にストックホルムの建築設計事務所Konceptによって3度目のリニューアルを果たしています。店内にはアアルトデザインの家具、照明、アクセサリーのほか、妻アイノのデザインしたファブリック、グループ会社であるVitraの家具も見ることができます。
せっかくフィンランドに来たらartekでお土産を買いたくなりますね。
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フィンランドと日本との親和性
北欧デザインの特徴は、「Democratic Design(民主主義デザイン)」であると言われていますが、フィンランドではアアルトのデザインを中心に、現代のデザインもまた、デザイン美と機能美のバランスが取れていることを感じました。フィンランドは森と湖に囲まれた土地と、その自然を生かし、暮らしをあたたかく、華やかに彩るデザインが豊富です。
フィンランドは日本のように四季が存在し、それがライフスタイルやデザインに反映されている点は、日本と非常に似ていると思います。また世界の言語の中で、日本語は非常に特殊だと言われていますが、同じくフィンランド語も習得の難しい特殊な言語と言われています。それぞれの国で、自分たちが持つ独自の文化を大事にしつつ、自然を生活に取り入れることを好むライフスタイルには親和性が高いことを感じます。もちろん、フィンランドと日本は、囲まれている自然の内容は異なります。それぞれの良さを生かしながら、自分たちの暮らしにあった“自然との共存”を目指していきたいと思いました。
※2022年6月時点の情報です。
取材、撮影&テキスト
- Chihiro Kunito(大日本印刷株式会社 生活空間事業部)
大学・大学院で心理学・認知科学・色彩心理学などを学ぶ。学生時代は内装の色彩が人間の心理に与える影響や、肌がきれいに見える壁紙の色彩などについて研究。日本色彩学会 2011年学会大会にて発表奨励賞を受賞。2012年DNPグループに入社し、壁紙の企画デザインを担当。2016年より現在の部署にて、ミラノサローネなどの海外展示会や北欧のライフスタイルをリサーチし、トレンド情報を発信するセミナーやWebでのレポート記事を執筆している。関連資格:インテリアコーディネーター、プロモーショナルマーケター
Vääksyのコテージでのサマーハウス体験がとても印象的でした。大きなログハウスに、身も心も温まる暖炉、外に出ると広大な湖と森が森が広がり、ゆったりとした時間が流れていました。ブランコに揺られながらコーヒーをいただく時間が心地よく、日常の忙しない東京の生活では味わえない雰囲気でリフレッシュすることができました。
Special Thanks
コーポラティブハウス、高齢者施設、 Vääksyのコテージ、シベリウスホールは一般社団法人ケアリングデザインのご案内で見学しました。
保育園、Kimitoönのご自宅は0.7 DESIGNのご案内で見学しました。