サステナブルな暮らしとデザイン
Vol.2 自然を尊ぶフィンランドの暮らし
-前編-
DNP生活空間事業では2017年から北欧のライフスタイルやデザイントレンド情報を発信し、幸福度の高い北欧の暮らしから学んだことを、当社の提案にも活かしています。北欧諸国の中でも、フィンランドは日本に最も近いヨーロッパの国で、日本と親和性が高い国と言われています。今回は、DNP生活空間事業部に所属する國東などが実際にフィンランドで視察した内容を2回に分けてご紹介いたします。
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フィンランドは日本より少し小さい33.8 k㎡の国土を有し、人口約550万人の人々が暮らしています。ノルウェー、スウェーデン、ロシアに隣接し、1917年 ロシアから独立した比較的新しい国です。日本とは1919年 に国交を樹立しています。言語の歴史からデンマーク、スウェーデン、ノルウェーは三兄弟と言われますが、一方でフィンランドはウラル系の言語を語源としていて、他北欧諸国とは異なる文化があります。
フィンランド最大の特徴は豊かな森と湖です。国土の約7割が森、約1割が湖で、その環境を活かしたライフスタイルが育まれています。年間を通して暗く寒い日が多いという北欧のイメージですが、フィンランドには日本のように4つの四季が存在します。このような背景から日本との類似点が多く、親和性も高いと言われています。一方で、高税率・高福祉により、豊かな教育や社会的なサービスが実現され、先進的な取り組みは日本でも注目されています。
都市部でも美しい森と湖が身近にあり、自然を本当に身近に感じました。フィンランドの多くのデザインがフィンランドの自然からインスピレーションを受けているのも納得です。
早速海辺に行くと、大型の手動脱水機がありました。
大きなラグは洗濯をして、湖のほとりに乾かす文化があるそうです。
-前編-
- 01. フィンランドのデザインを体感する
- 02. フィンランドのフィーカタイム
- 03. フィンランドの食
- 04. 地域のコミュニティを活性化させる公共施設
- 05. フィンランドで見られる環境に優しい取り組み
- 06. フィンランドの世界遺産
-後編
- 07. フィンランドの教育
- 08. フィンランドの暮らし
- Helsinki - - 09. フィンランドの暮らし
- Lahti & Vääksy - - 10. フィンランドの暮らし
- Kimitoön & Mathildedal - - 11. Alvar Aalto(アルヴァ アアルト)のデザイン
- 12. 北欧デザインと日本との親和性
01フィンランドのデザインを体感する
今回の渡航ではフィンエアーを使ってフィンランドのヘルシンキ・ヴァンター国際空港へ向かいました。フィンエアーでは、機内のブランケットやクッション、紙コップや紙ナプキンにMarimekkoのパターンが施されています。フィンランドのデザインをまず最初に体感できるポイントでした。
早速、Marimekkoのデザインに触れられて、
フィンランドに行くんだ!という気持ちが高まりました。
ヘルシンキ・ヴァンター国際空港
飛行機を降りると、フィンランドの季節が描かれた映像が、空間を包み込んでいました。高さ2m、長さ77mのLEDディスプレーはフィンランドの湖畔の地形のような、ゆるやかな曲線を描き、とても迫力がありました。
そして空港とヘルシンキ中央駅を結ぶ駅のホームに降りていくとフィンランド人アーティストAarne Jämsäによる巨大な壁画を見ることができます。パノラマの2部構成、高さ7mの作品は色鉛筆でデザインしたのち、デジタル処理されたアートデータをアルミニウムシートに印刷しているそうです。
インテリアトレンドを体感する
フィンランドに到着したら、まずはヘルシンキの街中にあるMarimekkoやFinlaysonなどのテキスタイルショップに行ってみましょう。フィンランドでは暗く寒い季節にも、お家の中を明るく温かい雰囲気を演出するため、自然をモチーフに描いた華やかなファブリックが欠かせないアイテムとなっています。 Finlayson はJames Finlaysonが1820年に創業したフィンランド最古のテキスタイルブランドです。日本でも有名なMarimekko は1951年Armi Ratiaによって創業しました。
フィンランドのさまざまなインテリアブランドの商品を一度に見たいという方はStockmann(ストックマンデパート)の5階のHome & Interior Designフロアがオススメです。照明や椅子、テーブルなどの家具、ロウソクやファブリックなどの小物も幅広く取り揃えています。 Stockmannは北欧最大の大きさを誇る百貨店で、ファッションや飲食に関してもさまざまなお店が入っているので、フィンランドのライフスタイルを体感できます。
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Hilton Helsinki Kalastajatorppa
フィンランドのデザイン・ライフスタイルを感じられるホテルを2つご紹介します。Hilton Helsinki Kalastajatorppa(ヒルトン ヘルシンキ カラスタヤトロッパ)はヘルシンキの西側、海辺に面したホテルです。ヘルシンキの中心地へのアクセスも良く、都市部に居ながらフィンランドの自然を感じることができるホテルです。プライベートビーチとフィンランドサウナも備えています。
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2004年に現在のホテルの名前で開業しましたが、 Sea Wing の建物は1969年にフィンランドの建築家Markus Tavioによって設計されました。客室はミディアムカラーの木質を基調とした、トラディショナルなエレガント空間でした。収納扉の面材に使われているバーチ材の照り感がオーセンティックな雰囲気を醸し出しています。壁面やファブリックはウォームなグレーでコーディネイトされています。
客室の窓からは海を一望できました。
良く見ると水辺にはカモの親子がお散歩をしていました。
ホテルの地下にはこのような地下道があり、ロビーのある棟とSea Wingの宿泊棟を結んでいます。フィンランドが岩の土地であることを実感できます。凹凸感のある壁面には下から間接照明がともされ、幻想的な空間をつくりあげていました。室内プールの隣には、サウナルームが複数並んでいます。サウナで身体が温まると、目の前の海に入ったり、プールで身体を冷やします。
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フィンランドは山がほとんどなく海抜も低いことで、雨や風による土地の浸食がなかったことから、大きな岩の塊が地形として残っています。
Hotel helka
ヘルシンキの中心地に位置するHotel helkaはartekとコラボレーションし、アアルトの家具に囲まれた空間を楽しめるホテルとして人気です。
建物は、フィンランドで最も古い女性団体のひとつであるYWCAの事務所として使われていたもので、1969年YWCAによってホテルにコンバージョンされました。そして2005年にリノベーションされ現在の形になっています。
客室はシンプルでコンパクトでありながら、機能的なデザインです。ベッドの上には、フィンランドの湖畔の景色が描かれたファブリックパネルが設置され、目覚めと同時にフィンランドの自然を感じることができます。そのほか家具や照明はもちろんアアルトのデザインです。
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ミニマルでスタイリッシュなインテリアを体感できます。
アアルトの家具を実際に使えるのはうれしいですね。
ヘルシンキデザインミュージアム
このミュージアムはHelsinki Design Districtの中心部に位置し、19世紀以降のフィンランドでデザインされたプロダクトなどが展示されています。ミュージアムは、1895年にGustav Nyströmによって建てられたBrobergska Samskolan高校の旧館として使われていた建物にあり、歴史漂う重厚感のある空間の中で、デザインの歴史をポップに楽しく展示していました。
フィンランド建築博物館
デザインミュージアムの隣にはフィンランド建築博物館があります。1899年に建てられたネオルネサンス様式の建築の中に、フィンランドの建築に関する資料や模型などが展示されています。
フィンランド現代美術館(キアズマ)
キアズマは1998年に開業した、近代アートと建築の両方が楽しめる美術館です。キアズマという名は、ギリシャ語のキアズマに由来し、「交差」を意味します。 設計はアメリカ人建築家Steven Hollによるもので、5階建ての構成です。1階エントランスに入るとそびえ立つ白いコンクリートの壁が交錯し、柔らかな外光が差し込みます。ゆるやかなスロープで構成されているため、階の移動を意識することなく館内を回遊することができます。
1階のショップ&カフェスペースのインテリアは、黄、赤、黒、白に塗装された合板をベースに使用しています。エントランスがホワイト一色だったのに対し、ショップエリアはパレットで好きな色を並べたような空間になっていました。またカウンター腰壁には酸で赤く腐食させた真鍮が使われていました。キアズマカフェのテーブル天板も腐食させた金属が使われていました。
ダウンライトのシェードも印象的でした!解けたガラスが垂れ下がってそのまま固まったようなデザインで、それぞれ違う形状をしていました。
フィンランド現代美術館は、2022年春にリニューアルオープンしたそうです。
02フィンランドのフィーカタイム
デンマークではHYGGE(ヒュッゲ)というライフスタイルが欠かせませんが、スウェーデンではFika(フィーカ)という言葉があり、コーヒーブレイクを意味します。フィンランドでもコーヒーブレイクの時間は必須であり、1日のコーヒーの摂取量は世界一だとも言われています。北欧のコーヒー文化は、コロナ禍でアウトドア需要が増した日本にも影響し、焚火コーヒーが話題になっています。
ヘルシンキの街中で気軽にフィーカタイムを体験できるカフェをいくつかご紹介します。
北欧に豊富にある白樺の木を使ったマグカップ「ククサ」を使って、煮出したコーヒーを飲むのが北欧流のアウトドアフィーカタイムです。
CAFÉ REGATTA
シベリウス公園の隣に位置し、海辺にある人気のカフェです。
建物は1890年に完成した元漁氏の小屋を改装しています。「田舎」をテーマにし、フィンランドの田舎にいるような雰囲気を再現しています。小さな小屋ですが、海辺に赤い建物がとても映えていて、沢山の植物や可愛らしい雑貨・インテリアに囲まれた個性的なカフェになっています。ガイドブックにも掲載されている観光客に人気のカフェですが、地元の人々にとっても憩いの場になっています。
人気メニューのシナモンロールとサーモンのスモーブローを頂きました。コーヒーを一杯おかわりすると、5セントずつ戻ってくるという不思議なサービスが展開されていました。
水辺の席には鳥小屋もあり、フィンランドの自然を感じながらフィーカタイムを楽しめます。
お手洗いは離れの小屋にあるのですが、ユニバーサルな配慮がきちんとされいたのが印象的でした。
内部は車椅子でも使用できるよう、空間を広く使って設計され、手すりも設置されていました。
Paulig Kulma
ショッピングセンターKluuviの1階~2階に位置するこのカフェは、コーヒー大手メーカーPauligが直営し、カフェ内でコーヒーが焙煎されています。コーヒーはもちろんのこと、ビーガンフードのランチビュッフェも人気を集めています。インテリアも素敵でオススメのカフェです。
店内のインテリアも非常に可愛らしく、多くのお客さんで溢れていました。1階はカッパーを基調とした空間で、カウンターの腰壁には、コーヒーや幾何学パターンをくり抜いたカッパーパネルが設えられていました。カウンター天板、照明、パネルや什器の小口もカッパーでアクセントが付けられています。2階はハンギングチェアや、小屋のような半個室スペースなど、さまざまな空間が設けられていて、いろいろな席を試したくなるような空間です。1階は可動式のボックスモジュールをランダムに組み合わせた着席スペースが配置され、プライバシーを保ちながらも、この空間にいる人々のコミュニケーションが立体的に展開されるような感覚がありました。
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地元の人々にも人気のカフェで、私が訪れときはほぼ満席でした。もう少し空いていれば、いろいろな席を試してみたかったです。
Espresso House
ヘルシンキの至る所にあるコーヒーチェーン店です。1996年にスウェーデンで創業し、現在では北欧最大級のコーヒーチェーンとなっています。“Tomorrow Friendly”と題し、持続可能性を最優先事項として取り組んでいるカフェで、インテリアにも配慮がみられます。
店内はインダストリアルなヴィンテージテイストの空間になっています。インハウスのデザイナーによるデザインで、素材のリサイクルやアップサイクルにより家具を製作しています。例えばテーブルの天板や収納の面材は、工事現場の足場で使われた木材を再利用しています。
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店内にある段差には、車椅子でも階段を登れるようレールが設置されていました。インテリアテイストに合うように縞鋼板が使われています。
03フィンランドの食
ライフスタイルに大きな影響を与える食の分野をご紹介します。フィンランドは決して、食材が豊富な国とは言えませんが、広大な海と森の恵みである、サーモンやニシンなどの魚、ジャガイモを使った料理、ベリーを使ったジャムやジュースが有名です。
どこのスーパーでも種類の異なるジャガイモが大量に売られていました。欲しい量だけ袋に入れて購入できます。そして鮮魚コーナーに行くと大きな切り身のサーモンが沢山売られていました。
サーモンスープはフィンランドの名物料理です。私がいただいたのは、公共サウナLöylyに併設されたレストランでした。スープというには量が多く、少し塩気が強く感じ、寒いときにシチューのようにいただくのが美味しいかもと感じました。右側の写真はサーモンを丸ごと焼いたお料理です。フィンランドのお宅で頂いたのですが、脂がのっていて、とても美味しかったです。
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フィンランドの食卓で頻繁に出てくる食材にルバーブという食材があります。ルバーブは夏のフィンランドでは定番の野菜で、茎の赤い部分をデザートやジャム、ジュースに使用します。
もう一つ、フィンランドの朝食で必ず出てくるのがカレリアパイです。ライ麦でできた生地を使い、波打ったのパンの中には洋風のお粥のようなものが入っています。ライ麦を使った黒いパンも有名です。
ルバーブは毎日何かしらの料理やデザートに登場しました。甘酸っぱくて美味しかったです。野菜というよりもフルーツのような感覚でした。
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フィンランドの食を一度に体感したいときは、ヘルシンキのエテラ港にあるOld Market Hallがオススメです。1889年からマーケットとして営業している赤煉瓦の建物で、フィンランドの建築家Gustaf Nyströmによって設計されました。19世紀、市場は屋外にあるのが普通でしたが、衛生面の配慮から屋内の市場を作ることで、より売場が活性化されると考えられ建築されました。その歴史を感じられる重厚感のある佇まいの中で、新鮮な野菜、肉、魚介類、お惣菜、コーヒー、お菓子、雑貨など、さまざまな商品が販売されています。一部レストランになっているところもあり、地元の人々や観光客で賑わっています。
フィンランドの食文化を一挙に体験できますよ。
04地域のコミュニティを活性化させる公共施設
フィンランドの伝統文化サウナ
近年日本でも人気の高まっているサウナはフィンランド発祥の文化です。もともとは、煙突のない空間の中で、ストーブで薪を焚き、時間をかけて空間を温めていくスモーク式が一般的でしたが、手間のかかるこの方式は現在では減少し、電気式が一般的になっています。サウナ内部には高温に温めた石があり、それに水をかけることで蒸気が上がり、室内の温度を上げることができます。そして体が温まると、目の前にある湖にダイブ!そしてまたサウナに戻り、といった行動を繰り返すことで心身ともに健康になると言われています。
街中にあるサウナは見知らぬ人同士も会話を楽しめるようなコミュニティの場として発展してきました。フィンランドでは、都市部のアパートにもサウナが付いているケースが多くなり、コミュニティの場であった公共サウナが減少しているそうです。そのような背景から、フィンランドの文化である公共サウナを復活させようという動きがあり、ヘルシンキの街中にスタイリッシュでオシャレな公共サウナが誕生しています。
Löyly
老若男女問がわず、フィンランドのサウナ文化を楽しみ、新しいコミュニティ活性の場になることを目指して2016年に完成したLöyly(ロウリュ)。海沿いに位置し、美しい景色と共にサウナとレストランが楽しめる施設として人気を集めています。サウナ内は水着を着用し、男女共用となっています。サウナで身体が温まると、桟橋から海にダイブすることができる。
設計はフィンランドの建築事務所Avanto Architectsが手掛けています。住宅地からの展望をさえぎらないよう配慮し、低層で設計されています。また経年変化によって外装の木材が味わいを増し、海沿いの岩のような姿になるとイメージされているそうです。サウナは水力発電、風力発電を利用して温めていて、サステナビリティも配慮されています。この施設にはカフェ・レストランも併設され、多くの人で賑わっていました。
サウナというフィンランドの文化を継承しつつ、新たなコミュニティの場として地元の人々に愛されていることを感じました。
Löylyでサウナ体験をしてきました。体が温まると目の前にある湖にダイブ! 私は水がとても冷たく感じ、長くは入っていられませんでした。
サウナという言葉もフィンランド語なんですよね。日本でも最近フィンランド式サウナが流行していますね。
Allas Sea Pool
ヘルシンキのエテラ港の近くを歩いていると、大きな観覧車Sky Wheelが見えてきます。この観覧車はサウナ付きのゴンドラもあるそうです。そして観覧車のふもとにはAllas Sea Poolが見えます。プール、海水プール、レストランを併設した公共サウナ2016年に開業して以降、観光客や地元の人々で賑わっています。
海とプールが一体化したような施設で、とても気持ちが良さそうです!
静かすぎない図書館Oodi
2018年12月に開業したヘルシンキ中央図書館「Oodi」。「本の天国」をコンセプトに約10万冊が蔵書されています。 設計はALA Architectsが手掛けています。木材で描かれた有機的な曲線が非常に特徴的な外観です。1階~2階の外観はフィンランド産のスプルース材が使用され、3階部分はガラスで氷のレイヤーが重なったようなデザインを表現しています。建物に入るエントランスに近づくと、外壁がそのまま庇になり、大きな樹の下で包み込まれるような感覚がありました。建物は3階建てで、それぞれ用途に応じて、異なる雰囲気をもったフロアになっています。
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1階は複数のエントランス、ホールやカフェがあり常に活動的なエリアとなっています。2階はアクティブな市民へのニーズに応えるフロアです。会議が行えるシェアスペースや、作品を制作するためのミシンやプリンターなどが置かれたフロアになっています。テレビゲームができる部屋や音楽スタジオなどもあり、あらゆる制作活動に対するサポートが行われていました。一部事前予約制ですが、全て無料で使用できるそうです。
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ひな壇スペースを使ってダンスイベントが行われたこともあるようです。
学生や趣味で芸術作品を制作したい人にとって、このような設備面でのサポートはうれしいだろうなと感じました。
そして3階は本の天国と呼ばれている図書館フロアです。円形にくり貫かれた天井から差し込む光が美しく、とても居心地の良い空間でした。着席スペースもさまざまなデザインが設えられ、ソファに座ってくつろぐ人もいれば、床に座っている子どももいます。低めに設計された本棚には本だけでなくCD、DVD、ゲームも置かれていて、子どもでも、車椅子を使っている方でも、取り出しやすいように工夫がされていました。
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自然や人にやさしい空間であることを実感できました。傾斜のフロアでは、子供たちが寝ころびながら静かに遊んでいました。
ヘルシンキ大学図書館
もう一つ、ヘルシンキで有名な図書館として、ヘルシンキ大学図書館に行ってきました。この図書館はヘルシンキの設計事務所Anttinen Oiva Architectsによって設計され、2012年に完成しました。
館内に入ると、美しい楕円形の吹き抜け空間が広がり、天窓から降り注ぐ外光が白い壁に反射し、1階のエントランスまで明るく包み込みます。レイヤーの重なりや、美しい曲線美が随所に見られ、視覚的にも落ち着きを与えていました。フロア、スペースによって本を静かに読む場所、PCなどデジタル機器が使用できる場所など用途が分けられていて、訪れた全ての人が快適に過ごせる空間になっています。
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テンペリアウキオ教会(岩の教会)
フィンランドでは約7割がキリスト教と言われていますが、ヘルシンキには特徴的な教会がいくつか存在します。観光名所でもありますが、地元の人たちが静かに過ごせる場所としても大事な空間となっています。
テンペリアウキオ教会は1961年にTimo & Tuomo Suomalainen兄弟(ティモ&トゥオモ・スオマライネン)によって設計され、1969年に完成しました。氷河時代から残る天然の花崗岩をダイナマイトで破壊してくり抜いて建築されています。
どのように岩をダイナマイトでくり抜いていったのかなーと考えながら内部を見学しました。
天井には直径24m銅板があり、そのまわりには180枚の天窓のガラスが張られていて、太陽光が空間に神々しく差し込みます。天然の石と、鉱物である金属パネルのコントラストが何ともいえないダイナミックな空間を演出していました。教会の外に出て、岩を上ることもできます。
私が訪れたときは、学生たちがオルガンにあわせてコンテンポラリーダンスを練習していました。優れた音響環境のため、コンサートホールとして使用されることもあるようです。
カンピ礼拝堂
ヘルシンキ中央駅近くのショッピングセンターの脇に佇む個性的な建物は、全ての人に開かれた教会です。もみの木とハンノキをつかった木造建築で、設計はK2SArchitectsが手掛けています。
この教会は日々のせわしい暮らし中で、人々が心を安らかにする場としてひらかれています。礼拝などの儀式や行事はなく、誰もが安らぎを求める人々が、静寂の中、祈りをささげることができます。
中に入ってみると、卵型をした空間で木に包まれるような安心感がありました。
天井からは太陽光が差し込み、外の賑やかな街並みとは対照的に、静かにぼーっとしていたくなるような時間が流れていました。
05フィンランドで見られる環境に優しい取り組み
北欧はサステナビリティの先進国として世界から注目されています。フィンランドでは2035年までにカーボンニュートラルを達成することを目標にかかげ、さまざまな環境に優しい取り組みを行っています。ここではフィンランド流のサステナブルな取り組みをいくつかご紹介いたします。
シェアリングビジネスとエコ
デンマークと同様に、フィンランドでも自転車での移動が盛んです。ヘルシンキの街中には至る所にシェアサイクルが設置されていました。電動キックボードのシェアリングサービスも見かけ、ちょっとした距離の移動に非常に便利なサービスです。このキックボード自体もすべての部品をリサイクルパートナーの最新テクノロジーで再利用されるそうです。
シェアリングサイクルやキックボードの普及により、交通事故の増加が一つの課題になっているそうです。
ヘルシンキを歩いていると、自動車専用レーンと歩行者専用レーンがきちんと分かれていて、事故を防ぐような取り組みもありました。
フィンランドではWhimというモビリティアプリサービスが世界的にも注目を集めています。
公共交通機関をはじめタクシーや鉄道、カーシェアリング、レンタルサイクルといったあらゆる移動サービスが登録されていて、アプリで目的地を設定すると、最適な移動手段・経路を自動で提案してくれます。このような取り組みにより、公共交通機関の利用者が26%増加し、自家用車の利用者が半分に減ったというデータも見受けられます。
利便性は損なわずに、環境にも配慮した取り組みを積極的に取り組んでいるところが面白いですね。
飲料・食品のアップサイクル
続いては食におけるサステナブルな取り組みをご紹介します。賞味期限切れ食品のみを扱うスーパー「We Food」に行ってきました。1号店はデンマーク コペンハーゲンにあります。We Foodでは、通常のスーパーで販売できなくなってしまった賞味期限切れの食品を揃え、通常の約30〜40%引きの価格帯で販売しています。既存のスーパーマーケットと契約を結び、多くの食品が流通しています。
ヘルシンキの店舗はあまり大きくなったのですが、生鮮食品からパンまで取り扱う商品の巾は広いなと感じました。運よく、欲しいものにめぐり合えたらラッキーという感じかと思います。
フィンランドでは飲料缶やペットボトルにデポジットシステムが採用されています。空になった缶やペットボトルをスーパーにある専用の機械に入れると、お金が戻ってくるシステムです。缶の大きさや材質によりますが、1本0.1~0.4ユーロ程度が返金されます。空き缶を入れると、レシートがでてきて、そのレシートをスーパーでの精算時にレジ係の人に手渡すと、値引きされる仕組みになっています。
インテリアのアップサイクル
街中にはいわゆるセカンドハンドショップが沢山あり、人の出入りも多かったです。この写真はFidaというお店で、洋服、アクセサリーから家具、食器まで幅広く扱っていました。このお店はフィンランド外務省からプログラム支援を受けていて、お店の売上金は 世界の貧しい暮らしをしている子どもたちに寄付されるそうです。
フィンランドの伝統工芸 ポッパナ織り
ポッパナ織は、平べったい太い糸を使用した多色感のある楽しめる織物です。ポッパナ織は、一般家庭やホテルではラグやタペストリーとして使用されている光景をよく目にします。ポッパナ織り専用のリボンのようなものを糸として使用し織るタイプもありますが、使い古したシーツやテキスタイルを裂いて糸にしているアップサイクル品や、既存のファブリックから糸を解いて再構成したものも存在します。テキスタイルブランドとして有名なFinlaysonでは、過去に販売したムーミンパターンのファブリックを再利用したポッパナ織のラグを販売していました。
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ポッパナ織り体験もしました!選ぶリボンの色はもちろん、織る際の力のかけ方や、リボンの通し方で織り具合がかわってくるので、自分だけのオリジナルのポッパナ織りが出来てとても楽しかったです。
フィンランドではほぼ毎日のようにフリーマーケットが各地で開催されています。その中でも年に2回開催されるクリーニングデイはフリーマーケットをより身近に楽しむことができるイベントとして話題です。誰でも参加でき、出展者はアプリを使って、フリーマーケットの場所を地図上に登録、利用者は最寄りのフリーマーケットが検索できる仕組みが整えられています。リサイクルをしながら、地域交流もはかれるイベントとして注目されています。
新しいモノを買うのではなく、古くて価値のあるモノを見つけるのも楽しいショッピングですね。
06フィンランドの世界遺産
Fortress of Suomenlinna(スオメンリンナの要塞)
スオメンリンナはヘルシンキから約3km沖に6つの島からなる海洋要塞です。1991年にユネスコの世界遺産に指定されました。人気の観光地ですが、現在約800人の人々がこの島で暮らしています。島の中には、美術館やカフェ、海軍学校、開放刑務所、教会などがあり、至る所でフィンランドの歴史が感じられる土地となっています。
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広大な土地はアップダウンが激しく、敵の攻撃から身を隠せる場所が多々存在します。高台に上ると、その視線の先には海が臨め、とても美しいとももに、対岸にある敵国に対し、常に備えていたのだろうなと感じました。広大な土地には野生のウサギも多く生息していて、大地を走り回っていました。
要塞が建築されたのは18世紀で、その後スウェーデンやロシアとの戦争で、基地として利用されました。島を歩いていると、海辺や高台に大きな大砲を近くで見ることができます。またザンデル砦は石造りのトンネルが続き、アーチ状の開口部から鉄砲が打てるようになっています。
砦の中はひんやりと冷たく、体感温度がぐっと下がる感覚でした。薄暗く不気味さも感じますが、子どもたちには良い遊び場になっていました。
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ヘルシンキとスオメンリンナ島はフェリーで15分ほどです。フェリーに乗ると、海からヘルシンキの街が一望することができ、街中から見る景色とはまた違った角度からヘルシンキの街並みを眺めることができます。
以上が、「Vol.2 自然を尊ぶフィンランドの暮らし」の前半パートのご紹介になります。
後半パートでは、フィンランドの保育園、高齢者施設、一般住宅、そしてアルヴァ・アアルトのアトリエと自邸をご紹介します。
※2022年6月時点の情報です。
取材、撮影&テキスト
- Chihiro Kunito(大日本印刷株式会社 生活空間事業部)
大学・大学院で心理学・認知科学・色彩心理学などを学ぶ。学生時代は内装の色彩が人間の心理に与える影響や、肌がきれいに見える壁紙の色彩などについて研究。日本色彩学会 2011年学会大会にて発表奨励賞を受賞。2012年DNPグループに入社し、壁紙の企画デザインを担当。2016年より現在の部署にて、ミラノサローネなどの海外展示会や北欧のライフスタイルをリサーチし、トレンド情報を発信するセミナーやWebでのレポート記事を執筆している。関連資格:インテリアコーディネーター、プロモーショナルマーケター
Vääksyのコテージでのサマーハウス体験がとても印象的でした。大きなログハウスに、身も心も温まる暖炉、外に出ると広大な湖と森が森が広がり、ゆったりとした時間が流れていました。ブランコに揺られながらコーヒーを頂く時間が心地よく、日常の忙しない東京の生活では味わえない雰囲気でリフレッシュすることができました。